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2016年5月 3日 (火)

葉室麟「辛夷の花」(徳間書店)

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 葉室麟の新刊。おいしいものを後に残して楽しむように、脇にこの本を置いたまま後回しにしていた。読み始めたら葉室麟の世界にどっぷりつかり、途中で本を置くことができない。読み終わってみれば、いつものように気持ちのよい感動がある。

 子供ができずに離縁され、実家に戻った勘定奉行の娘・澤井志桜里は、隣家に不思議な男が転居して来ていることを知る。その男・木暮半五郎は、母の遺命であるとして紐で縛って刀を抜けないようにしている不思議な人物だった。共に生き方にこだわりすぎる故に、生きにくい生き方をしている二人が、次第に心を通わせあうようになる。

 折から、藩は藩主と藩を牛耳る三家老の確執で一触即発の状態にあった。藩主・小竹頼近は志桜里の父である勘定奉行の澤井庄兵衛を信頼し、三家老を排除しようとする。三家老はその動きを掴み、庄兵衛を亡き者にするべく画策する。半五郎はその庄兵衛を守るよう藩主の密命を受けていた。

 そんな中、志桜里を離縁した婚家から復縁の話が持ち上がり、志桜里の心は揺れる。心を寄せ始めた半五郎が、生涯妻を娶るつもりはないと告げたからだ。そしてある事情から、ついに婚家先に戻る。

 藩主と家老たちとのあいだは険悪となり、ついに藩主を押し込めて、澤井庄兵衛を上意討ちの名目で、家族もろとも討ち取るための家老配下の一団が屋敷に攻め込んでくる。

 寡兵でそれを防ぐ澤井家の人々と、藩主を救出する人々の危機一髪の闘いが繰り広げられる。

 もちろんハッピーエンドになるだろうことがわかっていても、ハラハラし、それを切り抜けたあとにも、もどかしいあれこれがあって、最後の最後に、なるようになって感動するのである。

 本当に大事と思う人のためであれば、人は力を発揮することができる。そのことを信じさせてくれる。葉室麟、良いですねえ!

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