故人をおもう
ほとんど人の悪口を言わない。そのかわり本人を前にすると辛辣にやり込める。部下に対して容赦のない叱正を延々とする。言い訳や話の終わらないうちの反論が大嫌い。ほとんど本人を直接ほめるのを見たことがないが、本人のいないところではそれなりに評価していたりする。
苦手にする人が多かった。なかなか仕事をまかせず過剰に指図をするが、一度まかせると、とことん信頼して責任逃れをしない。多少無理な指示を平気で出し、何とか成功しても、俺ならもっと早く、しかもうまく出来た、といってにやりと笑う。内心では嬉しいのだ、とこちらは勝手に思っていた。
案外あたたかい心を持っているのだが、ふだんの言動から、冷たい人に思われがち。甘い言葉が恥ずかしくて言えないのだ。どんなところでも物怖じしないが、繊細な神経の持ち主。
物怖じしないといえば、むかし「ついてこい」というのでどこへ行くのかと思ったら、サラリーローンの店に連れて行かれた。窓口でローンの組み方、利子、返済法など細々と聞いたあげくに「ありがとう、仕組みがよくわかった」といってさっと店をあとにした。
興味があるとすぐ直接訪ねに行く。流行も知らなければいけない、といってデパートや量販店などで売れ筋のもの、流行のものをよく確認していた。今年はニットものが流行っている、とか、プリントが多いようだ、とか、色のはやりなどもよく知っていた。
歩くのが速い。何にでも興味をもち、記憶力が抜群で、凝り性。囲碁、将棋とも得意。特に囲碁は日本棋院のアマチュア四段。仕事についても先をとことん読むのが好き。だからつい指図が多くなるのだ。
わたしが仕事で判断に迷ったとき、あの人ならどう考えてどうするだろう、とモデルにする何人かのなかの一人であった。
わたしは言い訳が嫌いなので、自分に非があるときは全面的に降伏する(あまり非がないと思っても、言い訳したくないので黙っていることもある)。それが男としてあたりまえだと思っていたら、案外そこが気にいられたのか、かわいがってもらった。
せめてもう一度だけでも会いに行けばよかった、といまさら思ってももう遅いのだ。
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