「次なる経済基調が定まった!」そうである。
この本は今月11日発刊されたばかりで、たぶん原稿が書かれたのは6月末から7月はじめと思われる。その時点で著者が入手できていた情報をもとに世界がどうなるか(いつものことだが)すこしデフォルメして予測を語っている。
トランプ現象やイギリスのEU離脱決定、中東情勢、中国の内情が分析されていく。すべての現象は、世界がデフレ状態であることによる必然的なものだと言う。なぜデフレなのか。それは世界が大きな戦争が二度と絶対に起こせないようになったからだと解く。
そもそもインフレは戦争に伴って起こる経済現象であり、戦争がなければ必ずデフレになるのが歴史的必然だというのだ。そこから世界を見直さなければならない。そこから見える直近の世界は、さもあらん、ともいえるし驚きでもある。それはこの本を読んで楽しんで欲しい。
日本についてのいくつかの見通しや分析で注目した点だけを特に取り上げたい。
日銀のマイナス金利導入である。日銀の黒田総裁は2%程度のインフレへの誘導を約束している。そのための方策としてマイナス金利という禁じ手を使ったと激しい非難をする向きもある。確かにどんな手を使っても今のところインフレ誘導はまったく成功していない。那須金利をさらに強化してもたぶんインフレにはならないだろう、と著者は見る。
そしてそれは黒田総裁もたぶん承知しているだろう、というのだ。マイナス金利にはじつは隠された別の目的があるにちがいないと読む。
すでにメガバンクは多大な困難を乗り越えてほぼ三行に統一された。多くの支店がなくなってしまった。重い負債を解消して身軽になり、その内容は劇的に改善され、いまもっとも資産が豊富な銀行に変貌した。世界中の大企業が投資のための巨額資金を日本のメガバンクに頼っている。そのような巨額の資金需要にこたえられるのは日本のメガバンクしかないのだそうだ。
EUはギリシャをはじめ多額の債務を抱え込んでいて余力がない。アメリカはリーマンショックの傷がまだ完全には癒えていない。中国は赤字垂れ流しの国有企業の債務を抱え込んで内容がどんどん悪化している。これから地方の債務(国有企業の債務とうらおもてでもあるが)も激増するとみられるから余力など全くない。その中国にEUは頼ろうとしてAIIBに参加したが、内情が分かりだして今中国に背を向けだしている。
話がくどくなった。
だからメガバンクはマイナス金利でもびくともしない。しかしそれ以外のすべての日本の銀行、そして農協(農林中金)、生保はほとんど体質改善のための合理化が進んでいない。これを進めなければ日本経済の脆弱さは改善されない。
日銀のマイナス金利はこれらの金融機関を直撃する。日銀に金を預けるだけでぬくぬくと生きのびてきた金融機関は、必死で投資先を見つけないと生きのびることができなくなった。これからそれらの金融機関の統合が進んでいくだろう。現にそれが進んでいるのも見えている。
ここに最大のターゲットである農協にメスが入るチャンスもある。時代の変化を無視して不合理きわまりない状態に納まり返っている農協が、体質改善を迫られる。それが第二の農地解放につながるかもしれない。現に農協が抱え込んでしまっている耕作放棄農地がどれほど多いか、農協は明らかにしない。明らかにしたとたんにそこからの農協改革が迫られるのが分かっているからだ。農業を護ると言いながら、じつは自分たちの保身存続だけを考え、かえって農業の体質改善を遅らせて、農業を損なってきたのが農協である。
そこが安倍首相の言う岩盤の一つであろう。
さらにマイナス金利は、ため込まれて塩漬けになっている企業の巨額の内部留保を動かすためにも作用するはずである。個人の預金はマイナス金利をつけることが出来ない。そんなことをすればだれも貯金なんかしない。みな銀行から引き下ろすだろう。しかし企業の貯金にはマイナス金利をつけることがあり得る。すでにヨーロッパのマイナス金利を実施している国ではそうしている。これは強制的に金を回すことにつながる。貯金していても資産が減るなら、企業は新たな投資に動くか、給料を上げることになるだろう。
それこそがマイナス金利強行の隠れた目的であるというのだ。
面白いなあ。それを意図してかどうか知らないが、そのようになったら、世の中は少し良いように動くかもしれないではないか。
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