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2016年8月 1日 (月)

佐藤優・宮家邦彦「世界史の大転換」(PHP新書)

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 もと外務官僚だった二人が現在の世界情勢を概観する。二人がテーマとして詳しく語るのは中東情勢である。中東が現在のような状態となった歴史を熟知し、それが世界にどのような影響をもたらしているのか、ディープに考察していくのだが、哀しいかな、中東についての基礎知識が当方にほとんど無いので、二人の対談のさわりをなんとか聞き逃すまいとするばかりで、知れば知るほどわからなことが増えていくことになった。

 世界が流動化して不安定化しているのではないか、と多くのひとが思い始めているのではないか。それはどういう原因によるものなのか、ここに一つの回答らしきものが提示されている。そしてこれから起こるだろうことを予想するために、なにに注目していけば良いのか、そのことにもいくつかヒントが得られるだろう。

 ヨーロッパが難民についてここまで苦しんでいるように見えるのには、ヨーロッパ自らが招いた過去の行為の結果であることは多少承知していても、どうしてそれを引き受けなければならないか、日本人にはわかりにくい。しかしヨーロッパの人々には自明のことであり、だからこそ極右の台頭も起こるというのだ。この辺の論理はわたしには説明が難しい。

 フランスでテロが続発していることの理由も、フランス社会そのものに要因があると語られる。そう言えば先日内田樹・姜尚中の「世界『最終』戦争論」でも、日本人には信じられないようなフランス社会の異質さが語られていた。語られているポイントは違うけれど、根は同じなのだろう。

 イランにたいしてアメリカのオバマ大統領が妥協に次ぐ妥協をしたことが、今後中東情勢をいっそう流動化させていくことになる。ロシアの介入を許し、サウジアラビアがアメリカと距離を置くようになり、イランとトルコが強大化していくという。やはり人口の多いところは経済的にも力を持つことになるようだ。

 さらに二人が注目しているのが中央アジア、フェルガナ盆地周辺である。新たなジハード拡散の拠点となるという。関わるのはキルギス、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、アフガニスタンなどである。そしてそのすぐ東、そもそもが東トルキスタンであった新疆ウィグル自治区である。

 資源が豊富にあり、中国ロシアをはじめとしていろいろな勢力がここに押し寄せつつある。もともと独裁者が支配している国々が多いが、みな長期政権にゆるみがでてきており、そろそろ大きな変革が起きてもおかしくない。

 中東情勢が飛び火する可能性が大きいのだ。

 このフェルガナ盆地も大国の勝手な線引きでむりやり国が作られたところなのである。

 しかし新聞をはじめとするニュースでは、この二人が語るような視点からの中東情勢はほとんど語られない。それはこの二人が特殊な、間違った世界観に基づいているからだろうか。私はこの二人の見方のほうを評価したい。だからこの本で指摘された注目箇所のニュースを目にしたら、よく記憶しておいてこの本に書かれているような視点からニュースの意味を考えることをたのしみにしたい。

 もちろん世界を論じているので、アメリカや中国、ロシアや韓国、そして日本も論じられている。大変参考になったが、繰り返すが、中東についてわたしがあまりに無知なので、二人が自明としていることが自明で無く、しばしば読み進めるのが困難なところもあってところどころ読み飛ばさざるを得なかった。

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コメント

私はお二人が元外交官であり、その分野に関して相当な専門家であることを認めつつも、もっぱら西側視点をそのまま受け入れたものであり、西側世界の気がつかない「別の歴史」をイスラーム世界が刻んでいたという点を見逃しているような気がします。 最近たまたま『イスラームから見た「世界史」』という本を読み。その中でフランシス・フクヤマの 『歴史の終わり』 がまさにその典型であるという一節を読んでそのように感じました。
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Hiroshi様
Hiroshiさんはこの本を読まれたのでしょうか。
ご指摘のイスラムの国々が刻んだ「別の歴史」についてこの二人はかなり知識を持ち、西洋世界のものの見方では現在の中東世界の混迷を理解できないことを論じている本だとわたしは感じました。
だからフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」とはまったく視点が違うと思います。
「歴史の終わり」の視点ではいまの世界の情勢はまったく説明がつかないことを論じているのだと思います。
ブログにも書きましたがわたしは中東のことにまったく門外漢なので、浅読みによる勘違いがあるかもしれません。

そう云われれば、確かにこの本は読んでいません。批判すべきではなかったのかもしれなせん。しかし普段の2人の言動は承知しているつもりです。それで先のような意見を書きました。
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Hiroshi様
コメントをいただくことはありがたいと思っています。
わたしがこの本を読んで感じたことのみを申し上げました。
中東については基礎知識がないに等しく、ニュースを見るための参考にしようとこの本を読んだ次第です。
読みやすいはずのこの本でも読むのに骨が折れましたから、今後中東について、より深く読む予定は今のところありません。

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