あこがれる
今年の8月が渥美清が死んで丸20年、NHKBSで寅さんシリーズの一部を放映しているけれど、それ以外にも特集番組をいくつか放送していた。それぞれいろいろな思いで見たけれど、1995年の『渥美清の“寅さん”勤続25年』という番組が印象に残った(録画したものを今日観た)。全48作のうちの47作目の撮影に同行しての記録やそれ以外の映像、渥美清に対するインタビューなどが収められている。
渥美清自身が寅さんについて語っている。
「この映画を観た男の人のうちの、すくなくない人が寅さんのような、家族とのしがらみもなく、社会の縛りもなく自由に生きる生き方にあこがれたでしょうね。実際にはそんな生き方はなかなか出来ないですけれど」というような意味のことを語っていた。
自由に生きるということは、ときにひどく厳しく、そしてさびしいものであろう。野垂れ死にも覚悟しなければならないかもしれない。世間のしがらみから自由であることと引き替えに出来るほどうらやましいことかどうか分からない。だから人はあこがれるけれど、寅さんのようには生きない。
寅さん映画には日本各地の古い、日本らしさの残る場所が寅さんの旅先として必ず描かれる。そこはどこか懐かしい。そのなつかしさと人の温かさとがじかに映画から伝わってくるのは、寅さんがさびしい人だからではないかとわたしは思っている。
さびしい気持ちは心を繊細にする。あたりまえに見過ごす景色や物音が、寅さんのさびしい心の眼を通すと、その美しさ、なつかしさが際立つ。映画は忘れてしまっていたそんな景色を感じさせてくれる。
寅さんがあれほどマドンナに恋い焦がれるのに、マドンナから慕われるとほとんど峻拒してしまうのは、女性と結ばれて関係が出来てしまえばそこにしがらみが生じてしまうからで、そうすれば寅さんは寅さんでなくなってしまう。
渥美清が田所康男としての自分の家族を決して公にしなかったのは当然だと思う。
このドキュメントを観てわたしが思ったのは、定年退職して一人旅をしている自分の気持ちの有り様が、どこか寅さんに影響されているということだ。だから景色のすばらしいところも良いけれど、特に思い出に残っているところは日本らしさの残る風景のような気がする。
寅さんの映画はすべてブルーレイディスクにコレクションしてあるが、まだ三分の二ほどしか観ていない(特に後半に観ていないものが多い)。もちろん五回以上観たものもあるけれど。これをあらためて旅のガイドブックとして見直すというのも良いかもしれない。ずいぶん時間が経っているから同じ景色は望めないだろうけれど、その変化を見るのも一興であろうか。
あこがれはそんな形でかなえられる。それはとてもありがたいことなのだと思った。
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OKCHAN、こんにちは
同感です。私は新潟に単身赴任時代、マンションの一階のビデオレンタルで借りたり、テレビ録画で寅さん全48巻を収集していました。山田洋次監督作品は全般的に好きですが、寅さんは特に好きで、小諸市の懐古園の隣にある「小諸寅さん会館」も訪れた事があります。
投稿: 岳 | 2016年8月20日 (土) 07時14分
岳様
渥美清は小諸が大好きだったので、俳優としてではなく、素の個人として再三訪れていて友人も多いようですね。
わたしも小諸城址から千曲川を見下ろす景色が大好きです。
投稿: OKCHAN | 2016年8月20日 (土) 08時21分
OKCHANさん
寅さん映画の最後48作目、
紅の花
私が住む津山市がたくさん出てきます
田舎を楽しむには最高ですよ
故人(渥美清)を偲ぶ際、
いい人だったの絶賛でした
少しは、見習いたいと思います
投稿: ちかよ | 2016年8月20日 (土) 10時04分
ちかよ様
津山には二度ほど行きました。
津山のホルモンうどん、美味しいです。
城跡からの眺めも最高です。
桜の時期に行きたいけれど、混むでしょうねえ。
投稿: OKCHAN | 2016年8月20日 (土) 10時19分