矢崎泰久編「永六輔の伝言」(集英社新書)
本日八月三十日は、永六輔のお別れ会の日。
永六輔が特に嫌いでないなら、ぜひこの本を読むことをお薦めする。
永六輔が自分の出会った人たちとの出会い、そのひととなり、エピソード、その人の死までを語り尽くしている。いずれも魅力ある人たちである。そんな書き残された文章を、永六輔と生涯にわたって親交のあった矢崎泰久が編集し、全体を整えて本にした。
冒頭が渥美清である。最近渥美清の死後一周年を機にテレビで特集が組まれていて、それを見たばかりだ。その人となりについてイメージしていたことを永六輔の文章は裏切らず、さらにやさしい膨らみを加えてくれている。小林信彦が渥美清との親交を多少手柄顔に書いているのとくらべると、この永六輔の文章のほうに抑制の効いたつましい美しさを感じる。そのほうが渥美清にふさわしい。
ほかに淀川長治、岸田今日子、三木鶏郎、淡島千景、三木のり平、丹下キヨ子、黛敏郎、三國連太郎、中村八大、いずみたく、坂本九、石井好子、三波春夫、美空ひばり、小沢昭一、野坂昭如、やなせたかし、住井すゑ、水上勉、井上ひさしなどが語られている。
その人の永六輔が実見した真実の姿を語り、ともすれば暴露的になりそうなところをそうならずに踏みとどまり、その人を魅力的に感じさせるのは、永六輔の人に対する懐の深さとやさしさがあるからだろう。永六輔は誰に対してもやさしかったわけではないだろう。嫌いなものは断じて嫌いだったにちがいない。それを分けているのは永六輔の価値観、いや美学であろうか。
この本はさまざまな人たちを語ることで、永六輔という人間の生涯がどのようであったか、永六輔とはどんな人であったかを語る形になっている。人を語るということは、それを通して自分を語ることなのだということが良くわかる。
読んでいるうちに、語りたいことがあふれてきて舌足らずな早口になってしまう永六輔がラジオから語りかけているような気持ちになり、ときに胸が熱くなった。
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