誉田哲也「歌舞伎町セブン」(中公文庫)
私はこの本はハードボイルドではないと思う。もちろんこの本を典型的なハードボイルドではないか、と思う人もいるだろう。
新宿歌舞伎町のダークサイトを描き、そしてその過去を追われる男がいる。
歌舞伎町が舞台のダークサイドを描いた小説といえば、馳星周の「不夜城」、「鎮魂歌-不夜城Ⅱ」、「漂流街」が思い出される。これは紛れもなくハードボイルドだろう。主人公の置かれている状況が似ているところもある。
ただ、馳星周の小説の主人公が、とことん虚無を貫いた末の、どうしても捨てきれない人間性に苦しむのに対して、この「歌舞伎町セブン」では、帯にあるように「ダークヒーロー」なのである。
ハードボイルドは男の美学である。その美学は主人公の考える美学であり、ときに社会から逸脱するが、それに共感できれば読者にとっても美学となる。
ただ、ハードボイルドと相性がわるいのが正義である。「ダークヒーロー」はダークだがヒーローなのであり、正義を口にする。そうなると「必殺仕事人」と同じである。
「必殺仕事人」は池波正太郎の「必殺仕掛人」から派生したものであるが、「必殺仕掛人」の藤枝梅安は、「必殺仕事人」の中村主水のように正義のためにひとを殺しているのではない。藤枝梅安は彼だけの美学を貫いているし、自分の行為の正当性についての同意を求めることは決してしない。それがハードボイルドなのだと思う。
そう言えば主人公が最後に殺す相手が、「必殺仕掛人」の最高傑作の殺す相手と似ている。具体的にいうとネタばらしなので言わないが、読んでいればいやでも分かる。
わたしがハードボイルドと思わないからといって、この本が面白くないと言っているのではないので念のため。とても面白いから読み始めたらやめられなくなって、夜更かししてしまった。
「歌舞伎町セブン」に記憶があったので一度読んだのだろうかと思ったが、同じ著者の「ジウ」シリーズ、第三作「ジウⅢ 新世界秩序」にその名が出ていたらしい。どんな言及がされていたのか忘れているが。
じつは誉田哲也の新作「硝子の太陽N」を買ったら、帯に「誰が歌舞伎町セブンを売ったのか?」とあって、この「歌舞伎町セブン」を読むことにしたのだ。
このあとにさらに「歌舞伎町ダムド」という本があることも知った。これも探してきて読まないといけない。そう言えば「歌舞伎町セブン」には物語が続くことを暗示するところがラストにあった。それを読まないと「硝子の太陽N」がいつまでも読めないではないか。
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