葉室麟「津軽双花」(講談社)
この本を読んだときのわたしの調子があまり良くなかったのだろうか。あまり集中できなかった。
長編である「津軽双花」に加えて、「大坂の陣」「関ヶ原の戦い」「本能寺の変」の三編の短編が収められている。
全体として、すべての物語での石田三成や高台院(寧々)、淀君たちの世界観は統一されている。その世界観は実際の彼らの考え方と言うよりは、葉室麟がこうだと好いなあ、と思った世界観だろう。
それはいままで呈示されたことのない考え方である。確かにその考えに基づいて実際の歴史が動いたとしても、つじつまが合わないことはない。ただ、いままでの歴史観とは違うから、違和感があるのも否めない。
人間として理想を求めながら、同時に自らの幸せを願う、このことがいかに困難であるか、これは現代でもそうなのであるから、ここに描かれている時代の人たちにとってはなおさらであろう。
状況に合わせて自分を殺して生きることが当然であった時代に、自らの理想に殉じるという行動原理を持って生きる人がいたら美しいだろうなあ、という一つのファンタジーを葉室麟が描いたものかもしれない。
そのことにやはり心が揺さぶられて目頭が熱くなる(とにかく異常に涙もろいので)。生きにくい生き方を貫く人に感動するのは、自分には出来そうもないことをする人に感動するからか。
しかし全体とすれば、いつもの葉室麟の小説とは違う気がする。
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先日葉室麟の〔秋霜〕を読み終えました。
私はこの本でじんとくることはあっても落涙することはなかったので、
男性の貴方のほうがはるかに繊細な神経の持ち主だということがわかりました^^
または理解力の違いかもしれませんね。
津軽双花・・題名に魅かれます。同じ県でも私は南部ですが。
投稿: おキヨ | 2016年8月 4日 (木) 12時25分
おキヨ様
ブログにも書きましたが、わたしは人より涙腺がゆるいだけで、繊細ではないかもしれませんよ。
男が感じる部分と女の感動するところは多少違うかもしれません。
「津軽双花」の読後感は、ちょっと手放しで薦めたくなるほどではなかったので、歯切れの悪い書評になりました。
投稿: OKCHAN | 2016年8月 4日 (木) 13時09分