木村正人「EU崩壊」(新潮新書)
EUについておぼろげに分かっているつもりだったが、実際のEUが抱えている問題について知りたいと思ってこの本を読み始めた。読んでいるうちに統計値などが2013年までしかないことに気がついた。奥付きを見ると2013年11月に出版された本であった。
こういう時事ものの本は生ものである。三年近く前の本では背景となる状況がずいぶん変わっているはずだ。現に最初のほうはギリシャ危機とギリシャのEU離脱が主要テーマとして論じられている。
しかし読み進む内に、この本を読む値打ちがあることを確信した。EUのそもそもの成り立ち、そして国と国の力関係、周辺の国とEUの関係、それぞれの国のEUに対する立ち位置などがとても分かりやすくまとめられているのだ。
この本を読んでいると、EU設立の理念と現実の食い違いが次第に大きくなりつつあることを実感する。その軋み音が聞こえてきそうである。三年前に書かれているこの本が、イギリスのEU離脱をほとんど予言している(すでに2013年にキャメロンは国民投票を提言しているから不思議ではないが)。
この本ではEUの存続にかなり悲観的である。それほどEUが抱えている問題は多く、しかもそれが解決しつつあるというよりも、増大しているというのが著者の見立てだ。
この見立ては、私がいつも参考にしている長谷川慶太郎の見立てに似ているところが多い。
あたりまえのことだが、世界はすべて関連して動いている。その世界の動きにとってEUは原因であり、結果となっていく。そしてその影響力はEU諸国にとって残念なことに、次第に小さくなっていきそうである。世界は平準化して行く、というのが私の世界観だが、EUはまだそこのところの認識と覚悟が足らないのかもしれない。
それぞれの国が描くEUのあるべき姿が、あまりにもばらばらであることがEU崩壊の原因となるであろう。
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