田原総一朗が、長谷川慶太郎はただひとりトランプ新大統領の誕生を予測した、と持ち上げている。そうだったのか、知らなかった。
アメリカのマスコミがトランプを嫌悪して報道がゆがめられていることを承知していれば、そのことを割り引いてトランプの勝利を予想することはあり得たのかもしれない。しかしその真偽の検証はいまさらしても意味がない。すでに起こったことは起こったことで、どうしてアメリカ国民がトランプを選んだのか、そしてその後どうなるかを考えることだ。
オバマ大統領はリベラリストとして自分の信念に基づいた行動を行ってきたけれど、世界はいまリベラリストを歓迎しない。もっとも歓迎しない国はじつはアメリカなのだろう。しかし極端な保守が続くと、それに反発してリベラリストの大統領を求めるのもアメリカだ。
ではトランプは保守なのだろうか。従来の保守とはずいぶん様相が違う。ポプュリズムが保守であるかどうかは、この極端なポピュリストであるトランプが今後どのような政策を進めるかで評価されるだろう。
まずトランプはオバマケアの見直しとTPPの拒否を宣言している。日本のような国民皆保険を目指したオバマケアが議会によって(保険業界や製薬会社によって)徹底的に骨抜きにされ、国費は使われるけれど当初の理想とは似ても似つかないものになっていることを日本のマスコミは報道しない。この本でも、もっとも保険の必要な医療を受けられない貧しい人々こそが置き去りにされていることを伝えている。
オバマ大統領はもしかしたら、あまりアメリカのためにも世界のためにもならなかった大統領だったのかもしれない。わたしもそのことはずっと感じてきた。シリア問題がここまで泥沼になり、結果的にアサド大統領を存続させ、ロシアを軍事的に復活させてしまい、中国の海洋進出を黙認して暴走させてしまった。
抑止力とはいざというときには断固として軍備を使うぞという意思表示の裏付けがなければただの張りぼてである。アメリカはそのいざというときの軍事力行使を行ってきた(たいていとんちんかんだったけれど)。だからアメリカは世界に睨みをきかせることが出来た。
オバマは譲歩を繰り返した。北朝鮮もシリアもロシアも中国も、どうせアメリカは口先だけだ、とアメリカを舐めきることになった。ついにはフィリピンのような弱小国の大統領であるドゥテルテまでアメリカに言いたい放題である。日本人からみても呆れるほどであるから、アメリカ国民からすれば腹に据えかねていただろうと思うが、日本ではまったくそんな話は聞こえてこないし、アメリカの報道もおおむねリベラリストであるからそのオバマ大統領を評価していた。
トランプは何をやるか分からない。何をやるか分からないアメリカこそ抑止力になるのかもしれない。北朝鮮や中国は、何をやっいも手を出さないオバマ大統領よりはトランプのほうがこわいだろう。
世界のポピュリズムの台頭は特にEU諸国で著しい。イギリスのEU離脱もその現れだし、それは各国に波及して、ドイツやフランスもその波に呑まれるかもしれない。じつはEUは経済的に、特に金融的に危機状態にある、と長谷川慶太郎はいう。ドイツの銀行が危ないのだ(昨秋に危機を乗り切った、持ち直したという報道はあったが、当座をしのいだだけだともいう)、というのは彼の以前からの指摘するところで、それが表面化すればEUは崩壊してしまうかもしれない。
中国の外貨保有高が急減している、と云うことを最近ようやく日本のマスコミも報道し始めた。かねてから長谷川慶太郎が指摘してきたことである。今年そのデッドラインである3兆ドル(!)を切るのは確実ともいわれている。3兆ドルもあれば大丈夫と云う見立てをして、各国は中国に金の無心をする。習近平は外交的成果を自分の手柄にするために大盤振る舞いの約束を続けてきた。
ところが世界中で約束したその援助と称するお金がほとんど支払われていない。見かけだけ派手な約束で始まったプロジェクトがほとんど停滞したままであることが次々に明らかになっている。つまり中国にはじつは金がないらしいのだ。
AIIBを覚えているだろうか。一時ニュースに取り上げられていたけれど、いまは全く聞くことがない。AIIBに参集した国々は中国の金を当てにしていたことは明白である。しかしその金がないとなればAIIBは実働することが出来ない。それが何より中国に金がないことの証拠である。
人民元が対ドルで下がり続ければ結果的に物価が上がり、国民から不満が出てしまう。だから買い支えなければならない。そのために外貨を切り崩し続けているとみられる。人民元の対ドルレートをときどき見ていれば、その買い支えの跡が歴然と見て取れる。
世界はポピュリズムの嵐の中に入りつつある。それのもっとも象徴的な存在がトランプである。彼は国民に迎合しながらビジネスマインドで政治を行うだろう。それは損得を基準に是非を考えるということである。拝金主義が世を覆うだろう。そして何をやるか分からない新大統領が間もなく誕生する。
肝心なことを忘れていた。長谷川慶太郎は世界のポピュリズムの台頭はデフレが続くことが根底にあるという。そのことの理路はこの本を読んで欲しい。インフレは戦争によって起き、平和が続くとデフレ状態となる。それは良いことなのだが、世界はまだデフレに対する対応ができていない、ただ日本のみが先にその洗礼を受けて先行している、その強みが日本を支えている、と元気づけてくれる。相変わらずの長谷川慶太郎節はなんとなくこちらを勇気づけてくれる。
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