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2017年1月29日 (日)

父親の仕事

 内田樹老師の昔のブログをプリントアウトしてあって、寝床でときどき読んでいる。そこに「父親の仕事」について書かれていて、いろいろと思うことがあった。

 「父親」の最終的な仕事は一つだけで、それは「子どもに乗り越えられる」ことである。
この男の支配下にいつまでもいたのでは自分の人生に「先」はない。この男の家を出て行かねば・・・と子どもに思わせればそれで「任務完了」である。
だから、「よい父親」というのがいわゆる「よい父親」ではないことが導かれる。
「ものわかりのよい父親」は実は「悪い父親」なのである。
否定しにくいから。
「愛情深い父親」もあまりよい父親ではない。
その人のもとを去りがたいから。
「頭のよい父親」はさらに悪い。
子どもと論争したときに、理路整然博引旁証で子どもを論破してしまうような父親はいない方がよほどましである。
それよりはやはり「あんなバカな父親のところにいたら、自分までバカになってしまう」というようなすっきりした気分にして子どもを家から出してやりたい(それについて文句を言ってはいけない。自分だって、そう言って親の家から出たのである。父親がそれほどバカでなかったことに気づくのはずっと後になってからのことである)。
・・・人類学的な意味での親の仕事とは、適当な時期が来たら子どもが「こんな家にはもういたくない」と言って新しい家族を探しに家を去るように仕向けることである。

 私は中学の高学年頃から父とはほとんど口をきかなかった。どうしても口をきく必要があったときには最少の言葉ですませた。父は柔道の有段者で、戦争での修羅場も経験しているから、胆力でも腕力でもまったくかなわなかった。とにかく家を出ることが私の望みだった。だから大学に入って以来親と暮らすことはなかった。

 その父と和解らしきものが出来たのは三十を過ぎて息子が生まれてからである。父の男としての素晴らしさを本当に実感したのは父が死んでからだから、本当に自分はバカだったといまは思う。

 余談だが、志賀直哉が父親と激しく諍いをして、長い不和が続き、ついに和解するまでの気持ちの動きは、いくつかの小説で読み取ることが出来る。これに私は強烈な印象と同感を持った。それが分かったのは自分が父と普通に会話ができるようになってからである。

 いま内田樹老師のこの文章を読んで、あまりにも私の考えとシンクロしてることに驚く。ほとんど無意識のうちに私は「父親」の役割をきちんとこなしてきたことを教えられた。子どもたちが小学生のときに妻とは別居したので、私は「母親」の役もこなさなければならなかった。その役割の演じ方をまちがえると子どもに悪影響を残すことをおぼろげに感じていたから、そこだけは注意したつもりだが、かなり危ういことで、娘との関係に長いこと悩んだ。娘はずいぶん父親に腹を立てていたであろうことは鈍感な私にもわかった(息子はさいわい軽々と私を乗り越えて家を出て行った)。

 娘と互いに自立したおとなの関係になったことを最近ようやく実感できるようになった。そのよろこびについては何度かのろけ話のように書いている。

 そんなことを老師の「父親」論を読んで考えた。

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コメント

中学の頃、父は入退院をくり返し、高1の春に亡くなりました。なので、父とぶつかった記憶はありません。私とは性格が違ってたので、私が押し切られて不満を感じることが多くなってたのではと思います。それでも近所のオジサン達からは嫌なことは聞かないので、そんなに悪い人ではなかったようです。やはり大人同士の会話がしたかったです。

けんこう館様
父には聞いておきたかったことがたくさんあります。
父が死んでからそれを思うのですから、どうしようもありません。

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