新しいお代官様
アメリカ村に新しいお代官様が誕生した。このお代官様はいままでの慣例を無視することを何とも思わないので、近隣の村ともめることになりそうである。
新しいお代官様は領民に大盤振る舞いすることを約束をし、そのかわり他領からのアメリカ村への出入りを制限すると決めるらしい。商売はすべてアメリカ村の中でやり、よそ者は関所で税金をたくさん納めなければ、物を持ち込むことを許さないそうだ。
アメリカ村は圧倒的な力を持っていて、いままでもずっと自分に都合の良いルールを押し通してきたけれど、それなりに限度をわきまえて、見返りもなくはなかったから周辺の村も仕方がないと思っていた。それに仲間の村々の向こう側にはアメリカ村よりももっと阿漕な村がいくつかあって、そこから守ってくれることを約束していたから、仲良くしておくほうが得だとも思っていた。
ところがこれからは自分の村であるアメリカ村が豊かになることだけを考えていくとお代官様は宣言し、次々に新しいお触れを出している。お代官様になる前からそれらしいことを言っていたけれど、ほとんどの人はいままでの慣例や約束事が生きているし、証文もあるからまさか本気だと思わなかった。けれど、新しいお代官様は自分の気にいらない約束は全部ご破算にすると言う。本気らしい。
いままでの約束事はたいていアメリカ村にとって損だった、それが証拠にアメリカとの商売でアメリカよりも儲けている村があるではないかという。どんな商売でもアメリカより儲けてはいけない、アメリカ村にとって損になるようなことはあり得ない、それはあってはならないわるいことだから自分が正すのだ、といきまいている。
アメリカ村の領民は拍手喝采しているけれど、アメリカ村は得意な商売と得意ではない商売があって、不得意なところはほかの村から手に入れた方が良いから、物によってアメリカ村よりほかの村が儲かるものがあるのは当然だ。それに商売だから回りの村だってみんな儲けようと努力するのは当たり前で、アメリカ村だけ儲かるならしない方がマシである。
ところが努力をサボっていたのに自分のもうけを増やしたい越後屋が、お代官様の耳元で、あいつらがわるいから自分は儲からない、退治して欲しいとささやいている。お代官様は満面の笑みで越後屋の言いなりになる。それはアメリカのためになることであり、正義の行為なのだから会心の笑みを浮かべている。
こうして越後屋は儲かるようになるけれど、アメリカ村の領民はその分だけ高いものを買わなければならなくなって生活は苦しくなる。ほかの村から商売にやってくる者も、もうけが得られないからあまり来なくなる。いままで安いお給金で働いていた他国の貧しい人たちもアメリカ村に入ることができなくなったから、安いお給金の仕事をやる人がいない。もともとそういう仕事はアメリカ村の人がいやがる仕事ばかりだからなおさらだ。
どうしてもその仕事をアメリカ村の人にやらせようとすれば、お給金をたくさん出さなければならなくなって越後屋も思ったより儲からないことになる。
世の中は自分にだけ都合のいい話はないのだけれど、そのことに気づくのはずいぶん時間がかかるたろうから、新しいお代官様はしばらくアメリカ村でやりたい放題を続けることだろう。
回りの村の迷惑はいかばかりか。仲間たちの村の外側の、あの阿漕な村がそれに乗じて何か画策してくるのも心配なことである。ところがあろうことか、アメリカ村の新しいお代官様は何とそれらの阿漕な村と仲良くしそうな気配まである。回りの村はいま不安でいっぱいである。
この新しいアメリカ村のお代官様はいままでのお代官様と比べてご高齢である。ご高齢だが頭はわるくないのだとも言う。しかしその知識は三十年前で停まったままだと悪口を言う人もいる。ご高齢とご性格から、自分に都合のわるいことはまったく耳に入らないご様子である。すでに老化が進行しているかもしれない。
もし認知症にでもなったらアメリカ村はどうなるのだろう。回りの村は心配である。すでに認知症だ!などと失礼なことをいう輩もいると漏れ聞くが、私が言っているのではないので念のため。
生きていると世の中思ってもいないことが起きるものである。「まさか」は常にそこに潜んでいるようだ。 (おしまい)
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