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2017年1月 4日 (水)

ビジネスモデル

 内田樹老師のブログの2009年の分をプリントアウトして、眠る前や早朝の寝床で読んでいる。興味のない部分は読み飛ばしているが、毎月A4で四十ページ前後あるので読み出がある。

 この頃の記述で、教育をビジネスモデルで評価するな、ということが繰り返し語られている。まことに同感である。彼は当時現役の神戸女学院の教授であったから、教育のプロである。彼の意見は現場の実感から語られていて、同じことの繰り返しのようだが、次第にその意見は深化している。

 何のために学ぶのか?としばしば問われる。その学問は世の中のどんな役に立つのか?という質問が当たり前のように問われ、それに答えることが教育者に要求される。

 突き詰めていえば、教育が金になるかならないかで評価されているのである。その結果、文学部系の学部を閉鎖していく大学が多いと聞く。実際に高等教育で学んだことが実際の人生でどれだけ役に立ったのかと問われれば、ほとんど必要なかった、と云う人が多いだろう。

 だからまだ学ぶことの初心者である子供までが賢しらに、なんで勉強しなければならないの?などとおとなを見上げて問う。それに答えられないおとながほとんどであろう。

 老師は、おとなになるために学ぶのである、と云う。社会はおとなが一定数供給され続けなければ崩壊する。子供だけの社会は運営が困難である。そして損得でしか世の中を見ることができないのは、見かけはおとなに見えても、「何で勉強しなければならないの?」と聞く子供そのものである。   

 学問することが労働と同様なものであると考え、苦役の対価を要求する思考は、学びとは相容れないものである。

 そのことを私は大学に入って感じたから、目的のある学問ではない学びを楽しむことができた。そしていまも楽しんでいる。目的のある学問は就職のため、そして歴史や古典、心理学などは楽しみとしての学びだった。それがいまの私を形成している。

 学ぶことは本来楽しいことなのである。それを金銭との等価交換で捉えるというビジネスモデルでは学問は衰退するだろう。いま少子化によって大学は人員の確保に苦労している。そのときに、大学の存続のためにビジネスモデルの思考で若者を呼び込もうとしてことごとく失敗しているように見える、と老師は喝破する。

 いまトランプは政治をビジネスモデルで捉えるという手法で支持を得た。政治もビジネスモデルで、つまり損得だけで考えれば、自分だけ良ければいい、と云う考え方になるのは当然である。

 それはおとなの出る幕ではない、子供だけの社会を目指すものになりそうである。そんな社会は社会とはいえるものではなくなるに違いない。それがいったいアメリカに何を招来するのか、他人事ではいられないのだが、それを見ることになりそうである。

 すでに中国はそのような世界になりつつあるように見え、世界が、そして日本もそのような世界に向かっているとしたら、その先は恐ろしい。  

 金がないことが不幸で、金があることが幸福だ、という考え方に私は与しない。

140920_267 幸せな人

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コメント

競争のための学問がどんな結果を招くか、韓国・中国を参考に考えればわかる気がします。
文学とは縁がない私ですが、文学部は必要な学部の筆頭ではないかと思います。
長男が法学部に入学した時、私の知人は「法学部では先が限られる・・・」と言い放ちました。
司法関係に進むのは、ほんの一握りです。でも法律的な思考方法を学ぶのは司法関係に進まなくても
役に立つはずです。

けんこう館様
学問を労働だと考えるのはとんでもない間違いだと思います。
自分の知らないことを知ることは楽しいものです。
ものを知れば知るほど自分がなにも知らないことを知ります。
もともと損得で学問が始まったのではありません。
損得にとらわれても幸せにはならないと思う人もいるのです。

現在どこの大学でもアウトカム(成果)志向教育が叫ばれ、逆の方向に走っています。

しかし10年後には、もしかするとそのアウトカムは無用になってしまうかもしれないのにです。
(10年後には今ある職業の半分は無くなるとも言われています) しかし、そのことについて大学は沈黙を守っています。

このblogに触発され、こうしたことについてちょっと考えを書いてみました。
http://blue.ap.teacup.com/applet/salsa2001/4759/trackback

Hiroshi様
貴ブログ拝読しました。
文科省が教育を短期の成果主義で評価することの弊害を感じていたところに内田樹氏の文章を読んで強く共感しました。
だから私のブログはほとんどその受け売りです。
何でも数値化して評価できるという考えは、数値化が困難な大事なことを見落とすことにつながると思います。
数値化し、標準化し、誰でも取り替えがきく世界は、いかにも平等を目指しているようですが、オーバーアチーブのできる人間(by 内田樹)を評価せず、この世の中を荒廃させるというのが内田樹氏の考えです。
それはグローバリズムの本質だし、裏側に拝金主義が見え隠れしています。
トランプ新大統領の出現がそれを象徴しているように見えます。

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