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2017年1月29日 (日)

佐伯泰英「声なき蝉 上・下」(双葉文庫)

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 副題:空也十番勝負 青春篇。

 佐伯泰英の時代小説は面白い。面白いけれど、多作すぎて読むのが間に合わない。全51巻で完結した「居眠り磐音 江戸双紙シリーズ」は2000万部も売れたと言うから楽しみに読んだ人も多いだろう。「密命シリーズ」や「酔いどれ小籐次シリーズ」も読んでいたけれど、読み切れないので途中までにした。ほかにもシリーズはたくさんあってそれぞれに人気がある。ほかの「吉原裏同心シリーズ」や「古着屋惣兵衛シリーズ」を楽しみにしている友人もいる。

 しばらく佐伯泰英から足を洗おうと思っていたところへ「空也十番勝負」と来た。空也といえば坂崎空也、あの居眠り磐音こと坂崎磐音の息子である。その空也が16才になって、自ら望んで武者修行の旅に出るのである。最初に選んだのが薩摩の示現流を訪ねることである。薩摩は他国者の入国を厳しく制限している。果たしてその修行の旅は如何に。

 こんな惹句を見れば読まずにいられようか。気がついたら購入して、気がついたら読了していた。好い気持ちで読み終わった。そう、佐伯泰英の本は読み終わったときに好い気持ちになるのである。これがあるからやめられなくなる。せっかく足を洗うつもりだったけれど、このシリーズも読むことになるだろう。何しろ登場人物のうち、江戸の人々達はみななじみなのだから。

 空也は薩摩に入国するにあたって自分に無言の行を課す。その空也を付け狙う集団がいる。薩摩への入国者を監視し、不法入国と見なすと襲ってくるといわれる影の集団だ。空也がたまたま国境付近で知り合った家族が、空也と親しく知り合ったために惨殺される。空也は自分の志がこの事態が招いたことを直感するが、まだ入国したわけでもないのにこの仕打ちは理解できない。

 彼を特別に付け狙う者たちの真の目的は何か、なぜこのような異常な殺戮をするのか、そして空也は目的を果たすことが出来るのか。

 空也が生死の境を超越して成長していく姿が、我が子の苦難のように感じられて、次はどうなる、この危機をどう切り抜けるのか、と先へ先へと読んでしまう。前半はどうしてこんなに苦労させるのだ、と作者を恨みたくなるが、空也が自ら選んだ生き方だから仕方がないのだ。だから後半の活躍が気持ちいいのであるが。

 蝉は地中で長い年月を過ごしてから飛翔する。空也の脱皮が感動的な物語である。若いさわやかな恋もあってこれからが楽しみだ。

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コメント

すぐ読みました
こんな息子がいたらなどと思いを巡らします
でも 初めからこんなに強いとあとはどうなるんだろう・・・
などと いらぬ心配を

イッペイ様
こんな息子がいたら心配でたまりません。
とはいえ、息子は父親を乗り越えないと自立の実感を持てませんから、優れた父親の息子はそれなりに苦労することになりそうですね。

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