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2017年1月12日 (木)

柚月裕子「慈雨」(集英社)

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 私は涙もろい。実際に涙腺がゆるい(興奮するだけで涙が出る)し、映画やドラマを観て感激して涙ぐむこともしばしばある。そしてこの本には泣かされた。  

 本や映画やドラマの何に感じて涙ぐむのだろう。そこに人生が見えたときだ。人の人生(ちょっと変な言い方になった)には起伏がある。それらが垣間見えたとき、瞬間的にそれを追体験したような気分になる。それを感じたとき感情が激しく震える。その結果が涙なのだ。

 優れた小説、映画、ドラマには登場人物の人生がリアルに幻想される。それが実際に詳しく描かれなくても(実際にくだくだしく描かれないからこそ)、それをリアルなものとして想像できるものだ。登場人物はそのとき生きている。

 この小説の主人公は群馬県警を定年退職した警察官。過去に携わった事件の被害者に対する鎮魂のために四国八十八カ所の巡礼の旅に出る。独り旅のつもりだったが、いままで刑事の妻として常に独り待つ身だった妻が、もう待つばかりはいやだといって同行する。

 主人公には過去どうしても悔いの残る事件があった。その後味の悪さは彼をずっと苦しめ続けていて、しばしばその事件に関わりのありそうな悪夢を見る。巡礼の旅はそれを見つめ直す旅でもあった。

 そんな時、その事件と酷似した女児誘拐殺人事件が発生する。一般人になった彼だが、思わずかつての部下に電話してその事件の詳細を聞き出してしまう。

 こうして実際の捜査(群馬県)の現場と主人公の巡礼の旅が並行して語られていく。

 主人公が彼の人生と事件の数々、そして妻や娘との関係、彼の交友した人々の人生などが回想していくうちに、それぞれの人の熱い思いに胸を打たれる。

 事件の真相が彼の懸念するものであることが次第に明らかになるに連れ、彼はある決断をする。そして事件の解決と巡礼の旅の完遂の後に、彼はどのような心境に至ったのか。その気持ちを忖度して思わず涙があふれる。

 泣く私がおかしいのかどうか、試しに読んでみませんか。

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