住野よる「君の膵臓をたべたい」(双葉社)
2016年度のYahoo!検索大賞受賞。年間ベストセラーのこの本は、店頭で見ていていつも気になる本だったのだが、題名が今ひとつ引かせるところがあって、買うまでに至らなかった。
先日第三作(著者はその前にもたくさんネット小説を書いているけれど、メジャーデビューしてから三作目)の「よるのばけもの」を読んで、一作目、二作目が読みたくなった。この「君の膵臓をたべたい」はその第一作なのだ(第二作は「また、同じ夢を見ていた」)。
帯に読者の賛辞として、再読三読に値する、泣いた、と云う言葉が連ねられている。
読み出してしばらくは淡々と話が進行していくので、主人公である「僕」の気持になかなかシンクロしないもどかしさが感じられた。「僕」は高校二年生であり、私は初老の男であるからかと思ったけれど、気がついたら私はいつの間にか「僕」になっていた。「僕」の目で見、「僕」の心で感じていた。
「僕」は臆病であるから人と関わることの面倒を恐れ、誰とも交わらずに独り黙って本を読む少年だ。それは私自身の高校生のときそのままである。たぶん本が好きな多くの人、この本に感激する人々は本好きな「僕」に自分自身を見た思いがしたことだろう。
この本は、そんな「僕」がヒロインの「咲良(さくら)」と出会うことで経験する一夏の物語である。賛辞を連ねた人々がみな、泣いた、と書いているから、天邪鬼な私は泣くものかと思って読んでいた。最後には恥ずかしながら目元を拭っていた。だってそのとき私は「僕」だったから。
こんな魅力的なヒロインとの出会いは「僕」にとって幸せだったろう。私は本で出会っただけだけれど、幸せになることができた。この本を読んだ人はそう思うことが出来ると思う。
今年映画化されるそうだ。この本を読んだ人が原作から抱いた「僕」や「咲良」のイメージを損なわないものなら良いが、と思う。
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