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2017年5月 3日 (水)

「おらんだ正月」を読む

 在野の碩学森銑三を谷沢栄一翁が高く評価していた。その他、私が敬する人の多くが森銑三を高く評価している。しかし独学でその業を為した人であるために、学会ではまったく無視されてきた。それは象牙の塔が組み立てた文化史を否定するような説をしばしば唱えたからである。

 例えば井原西鶴は「好色一代男」の著者だが、それ以外の西鶴の作とされるものは全て別人の書いたものだという説などを唱えている。すべて西鶴の作として研究してきた学者にとってはとても受け入れられるものではない。だが森銑三は自分の説の根拠を詳細に裏付けして主張しているのに、それを一切検証せずに無視をする学会の態度は学者の態度とはいえない。

 そんな森銑三の著作は全集も出て入るのだが手に入りにくい。今回読み始めた「おらんだ正月」は岩波文庫に収められていて現代仮名遣いなので読みやすい。これは江戸時代の医家、本草家、探検家、発明家、思想家など50人あまりを取り上げてその事跡を書き記したものだ。当初は大人向けに書かれたものを少年少女向けに改訂したものだから、読みやすいのは当然なのである。

 全体については読み終わったらあらためて書き留めることにして、ちょっと面白かった部分だけここに引用したい。

 地理学の大家長久保赤水の逸話。

 貧しい農家から出て、独学で地理学の大家となった赤水は、また一代の偉人でしたが、平民の出の赤水は、少しも高ぶらない穏やかな人でありました。まだ郷里の家にいた時のことです。通りがかりの旅人が道を聞きますのに、笠を取って丁寧に物をいう人には、自分は家のなかにいて、ごく簡単に教えて済ましますが、笠も取らずに顔を突き出して、「どこそこへは、どう行くのかね」などと、不作法な口のきき方をする者には、わざわざ立って、一緒に辻まで行った上に、噛んで含めるように教えてやるのでした。
「あのようなぞんざいな男に、どうしてそんなに、親切にしておやりになるのですか」と人が問いましたら、赤水は、「いや、人並みの礼儀を心得た者ならば、口でいっただけでも十分に通じようが、物を訪ねる作法も知らぬような男には、間違いっこのないように教えてやらないと呑み込まれないだろうから」と答えたということである。

 確かに長久保赤水という人、尋常でない人物だということが分かる逸話である。赤水について書かれたもののほんの一部を紹介したが、このような文章で書かれているからすいすい読めてしまう。もったいないからいまは一日二人か三人分だけ読むことにして楽しんでいる。

 この本を子どもの時に読みたかったなあと思う。もう少し勉強するようになったかもしれない。

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コメント

おはようございます
先日は私の文章についてのご批判ありがとうございます。
森鉄三先生といえば、その膨大なデーターベースで有名な方ですね。
私もこの人の全集が欲しくてアマゾンや古本屋で探しています。
しかし、値段もありますし、気に入った媒体も中々なく、未だに購入できていません。
まあ、故・渡部昇一先生のおっしゃる通り「欲しい本はいつか見つかる」という定理(?)を信じて探そうと思っています。
では、
shinzei拝

shinzei様
森銑三氏は戦災でその膨大な蔵書と資料を失ってしまいました。
それは本人にとっても損失ですが、日本の国にとっても大きな損失でした。
茫然自失の状態から再起するまでの森銑三氏の心情はどうだったのか、想像します。
ところで、私がshinzei様のご意見を危険な正論と書いたように受け取られたようですが、それは私の書き方が誤解を招いたようです。
云いたかったのは、shinzei様の意見は正論で、そのような正論すら封殺するような風潮が危うい、という意味でした。
ご不快を与えてごめんなさい。

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