監督ルーファス・ノリス、出演ティム・ロス、キリアン。マーフィ、エロイーズ・ローレンス、ロリー・キニア、ロバート・エムズ他。
こういう暗い映画は劇場にかけにくいのかもしれない。日本未公開だが、強烈な印象を残す映画だ。こういう映画が見られるからWOWOWはありがたい。
隣どおしと向かい家の三軒の家族の中で起きる悲劇を描いている。一見それぞれ普通の家族だが、それぞれに問題を抱えている。そもそも何の問題もない家族というのはあるかもしれないけれど、私にはそれこそ特殊のように思える。
自分もいろいろ経験をして、問題を抱えていない人の鈍感さと、問題を抱えている人のやさしさを実感している。だから平和で安心安全、などという謳い文句を聞くと腹が立つ。世のなかはそんなに脳天気なものではない。そういう生活のすぐそばに口を開けている暗闇を無理矢理覗き込まされるような映画なのだ。
主にスカンク(エロイーズ・ローレンス)という名の少女の視点から物語は語られていく。彼女は父(ティム・ロス)と兄との三人暮らし。母がでていっしまったことが家族に重くのしかかっている。スカンクは先天的な糖尿病であり定期的なインシュリンの投与が欠かせない。しかしそのこと以外は彼女は健康で明るく好奇心旺盛な女の子である。
向かいにはリック(キリアン・マーフィ)という若者とその両親が住んでいる。リックは精神が不安定で自閉症気味だがやさしい。スカンクはリックと普通に接している。
そのリックの家の隣がオズワルド(ロリー・キニア)という男の家で、娘が三人いる。ここにも母親がいない。この母親は男と一緒に家を出ていったらしい。それからなのか元々なのかオズワルドは粗野で乱暴で疑心暗鬼になっている。娘達が母親の血を継いで淫乱になることを恐れているのだが、オズワルドが締め付けるほど娘達はそれに反発して無軌道になっていく。
少女スカンクの目の前で、突然オズワルドがリックに襲いかかり、殴る蹴るの激しい暴行をする。警察に逮捕され、彼の弁護をスカンクの父親の弁護士のアーチーが引き受けてことはおさまる。オズワルドの主張は、長女がリックと関係したからだというものだ。
この長女というのが凄まじい淫婦で、誰彼かまわず関係を持っている。スカンクの兄も実はそのひとりであることを後でスカンクは知ることになる。そのことをオズワルドはまったく知らない。しかもこの長女が唯一関係を持たないとしたらリックであることは誰にも明白なのに、オズワルドに問い詰められて長女はリックの名前を出したのである。
リックはオズワルドにおびえ、次第に部屋にひきこもるようになってしまう。リックは次第に妄想の世界に引き込まれて現実を見うしなっていく。
オズワルドの娘の三姉妹の一番下の娘とスカンクは同級生である。その一番下の娘は小柄で力もないのだが凄まじい姉二人を後ろ盾にスカンクや級友達から金を恐喝している。級友の窮地についにスカンクはその恐喝娘に反撃する。しかしその代償は恐喝娘の姉の報復だった。既にオズワルドの家庭は崩壊しているのである。淫乱娘は誰の子とも分からない子を妊娠して途方に暮れる。途方に暮れるほど自暴自棄になるというのがこのような人物の典型的な行動だ。
リックの人格は崩壊し、謝って父親を刺して精神病院に収容される。淫乱娘は妊娠しているのに無理をしたことが原因で死んでしまう。オズワルドは娘達の暴走が自分にも原因があることに薄々気がついている。さすがのオズワルドもおとなしくなる。
やがてリックが病院の治療の功があって退院してくる。しかしそこにはオズワルドがいる。彼にはオズワルドは恐怖の対象でしかない。リックは再び妄想の世界に落ちこみ、悲劇が起こる。そしてその悲劇に少女スカンクが巻き込まれ・・・。
憎しみと暴力がどんどん増幅したらどうなってしまうのか、ひとつのきっかけで家族関係や隣人関係が崩壊していくことをこれでもかとばかりに見せられる。そしてそれは現実にいつでも起こりえることなのだということを思い知らされる。
ラストにわずかの救いがある。現実もそんなものだろう。
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