知らないなりに考える
不勉強で中東のことはほとんど知らない。読みやすそうな池上彰氏の本その他を読んでも、読んだ尻から書いてあることを忘れて、いまだにどの国がシーア派が優勢かスンニ派が優勢か覚えられない。
先日BSフジのプライムニュースで、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都として認め、アメリカ大使館をエルサレムに移転すると表明したことに対する木村太郎氏のユニークな見立てを観た。世界中がトランプ大統領の今回の発表に対して非難囂々であるかのように日本のマスコミは報じているけれど、そう単純に不当なものと見ない方がよいのかもしれない、と教えられた。
もちろん見方によれは、木村氏の見立ては奇説と見做されるかもしれない。しかし結果的にその見立てに従って中東情勢を見直して今後の推移を見ていくと、案外その見立てが一番妥当だったりしそうな気もする。
というわけで今朝のNHKの討論番組の中東情勢についての専門家たちの意見を拝見した。さすがに木村太郎氏と同様の意見はない。情勢に詳しすぎて森の中の木だけ見ている人、本人は意識せずに片側だけから見ている人、あまりにも全体図が見えすぎて評論に終始する人などさまざまで、その中に木村太郎氏の意見を補助線として入れてみると案外自分なりの独自の感想が持てた。有難いことである。
中東情勢に詳しい人から見れば自明かもしれないが、あらためて単純化すれば、中東の緊張状態はイランとサウジアラビアの覇権争いによるものだということである。そして本来利害の反する二つの勢力がかろうじてイスラム圏としてまとまってこれたのは、共通の敵としてのイスラエルの存在で、それをコントロールしてきたのがアメリカだったということだ。
テロ組織のイスラム国がほぼ壊滅し、アメリカは中東から手を引きつつある。原油価格が上昇しているので、アメリカはシェールオイルやシェールガスが生かせるから原油にそれほどこだわらなくて良くなっているのだろう。しかも電気自動車がこれから急激に普及し始めれば、少なくとも輸送機器用の石油の需要は激減していく。サウジアラビアが石油依存脱却のために必死の対策を打ち出しているのは当然の行動であり、それに対応出来ない中東産油国の将来は危ういだろう。
サウジアラビアはその政策遂行のためにアメリカやイスラエルと宥和していくしかない。しかもISがなくなり、情勢に変化が生じ、ロシアがイランに肩入れし、アメリカがイランへの宥和から敵対へ舵を切る情勢を見れば、必然的に中東ではイラングループ対サウジアラビアグループとの敵対関係に戻ることになる。
既にイラン、レバノン、シリアと連続した線状の国々がサウジアラビアと対峙している構図である。だからサウジアラビアはイスラエルやアメリカと一層宥和するだろう。それを見越してのトランプの今回のエルサレム首都承認宣言なのだというのが木村太郎氏の見立てである。それが妄言か否かはこれからの推移を見ていれば分かることである。
いまトランプに猛反発しているのはイスラム国全体か?もちろんパレスチナは猛反発するのは当然である。しかし中東の全体がそうかどうかは個別に見ないと分からない。エジプトはサウジアラビアやアメリカに組みする動きがあるともいわれる。既にサウジアラビアとエジプトとイスラエルで、パレスチナをなだめるための方策が準備されているともいう。本当に中東というのは伏魔殿でよく分からない。トルコはイランやロシアと擦り寄りながら主導権を握ろうとしているようで、一度は行きたかったトルコがますます遠くなる気がしている。
蛇足だが、この記事を書いている最中に気になったので、石油の消費量のうちの用途別の割合を見てみた。自動車がEV化することで、どれほどその需要が減るか知るための目安である。それによれば、2013年の世界統計で、民生用35%、輸送用28%、産業用29%。参考のために、1971年は民生用39%、輸送用23%、産業用33%である。
ちなみに2012年の日本の統計、家庭用14%、業務用20%、運輸用20%、産業用43%であった。家庭用と業務用とあわせたものが世界統計の民生用ということのようだ。輸送用の部分がEV化で減るとみなされるけれど、当然その電気は産業用から供給されるので、石油全体の需要減は思ったほど大きくないのかもしれない。
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