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2017年12月11日 (月)

春日武彦『鬱屈精神科医、お祓いを試みる』(太田出版)

 帯に「凄腕の精神科医の魂が暴走したら、もう誰にも止められない。これはもうリノベーションと言うより『どこでもドア』だと思います。開けたら春日先生の脳みその中。」と歌人の種村弘氏が書いている。

 その言葉に影響されてしまったのか、それともその通りなのか、もう分からない。帯を読む前には戻れないからだ。

 あとがきに著者が書いているように、これは小説である。小説ではあるが通常の範疇の小説とはまったく異なる。多くが実話である(とわざわざ著者が書いている)。しかしその実話は彼が見たり感じたりしたことの記憶が元になっていて、それが本当の事実なのかどうかは定かではない。著者自身も検証のしようがない不思議な話であることを認めている。

 実話として語りながらそれは彼自身の記憶であり、つまり彼の頭の中の「記憶」という世界の出来事なのである。書かれていることは外部にあるように見えて、実は彼の内部世界であることに気がつく。いつの間にか取り込まれているのである。

 私は私でありながら著者の内部世界に取り込まれ、そこで彼の眼で記憶を追体験する。他人の心とシンクロし、心の中に潜り込むという夢枕獏の小説世界(サイコダイバーという)があるが、自分の意志ではないのに本を読むことで逆に取り込まれるようにそんな不思議な体験をすることになる。

 警告する。この本は自分自身をちゃんと持っていないと元の自分に戻れないおそれあり。もちろん冗談ですが、そういう不思議な体験が出来ます。臨床精神科医、春日武彦畏るべし!

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