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2017年12月29日 (金)

西村幸佑『報道しない自由(なぜ、メディアは平気で嘘をつくのか)』(イースト・プレス)

 この本の主旨は、中国で反政府運動を封じるために行っている検閲システムについて述べた後に

「情報統制は本書で繰り返し述べてきた『報道しない自由』と同じ構造を持っている。全体主義の国と違い、日本人は自由な情報空間の中で報道や言論の自由を享受していると考えるのが普通だが、じつは大間違いだ。なぜなら、見えない全体主義の情報統制の中に、すでに私たちは置かれているからである」
「人はものを考えるとき、言葉を使う。ては、言葉の使用が制限されたときに自由な思考は可能なのだろうか。思考そのものがある枠組みに入れられてしまえば、おのずから思考に制限がかかるのは自明である」

と述べられていることに明らかである。ここでは「報道しない自由」と「情報統制」がひっくり返されたかたちで同じものだとされているのだ。

 なぜいま若者が新聞やテレビの報道からどんどん離れていっているのか。それを若者の知識欲の低下、知りたい気持ちの減少ととらえるのは間違いだろう。新聞やテレビの報道が信用できないと気がついた若者が増えているということに気がついていながらそれを受け入れられないメディアがいる。

 アンケートをとれば若者と高齢者の社会認識に大きなズレが生じていることが分かる。新聞やワイドショーで繰り返し刷り込まれる社会認識と、それから自由な若者の認識が大きく違うことの意味をもう少し真剣に問い直す必要がある。

 マスコミは自主規制という枠を自らに架したことで言論統制を行っているというのが本書の主張である。そしてその淵源は戦後のGHQの事後検閲という巧妙な仕組みだった。このことは江藤淳の『閉ざされた言語空間』という本に詳しく書かれていて、この本でもそれをたびたび引用されいる。

 だから江藤淳は死後ほとんどマスコミに取りあげられることはない。極端なことを言えば、マスコミの自主規制、まさに「報道しない自由」によって封印されているからだ。私は評論家としての江藤淳を高く買っていて、彼の自死については深く思うところがある。

 森友・加計問題で、一方の主張ばかりが取りあげられて反論をほとんど報じない姿勢に不審を感じた人は多いはずだが、新聞とテレビでの報道だけを見ている人の多くはそれに気付くことができない。

 ワイドショーを見るのは、むかしは専業主婦のみだった。いまは私のようにリタイアした人たちも見ている。しからばニュースについての認識に、昼間働いていてそのようなものを見る機会のない人と違いが出るのは当然である。そこには「報道しない自由」によって恣意的に歪められた正義が報道されている可能性がある。

 思い起こせば、民主党が政権を取ったのも、そのような報道に国民が踊らされたことが大きかった。いま旧民主党に人気がないのは、民主党そのものの責任も大きいけれど、マスコミの責任も大きい。結果としてともに国民の反発を生んだ。

 著者の指摘は私も日ごろ思うところであり、朝日新聞が遂に慰安婦報道について誤報だと認めて謝罪したのはそのような手法が通用しなくなりつつあることの兆候であろうか。しかしこれからますますテレビの前に坐り、新聞をじっくり読む時間のあるリタイア組が増えるとすると、はたして楽観的に考えていいのか分からない。

 願わくば、その時間的ゆとりをもう少し違う情報に接することに当ててもらいたいものである。暇な人が増えたらマスメディアの誘導する正義を信奉する信者が増えると当て込んだことが裏切られて欲しいものである。

 著者は、いささか我田に水を入れる如く、自己の主張に誘導しすぎるきらいはあって、そこはいささか飛ばし読みした。さくさく読めるし、大事なことも書かれているのだが、それを我慢しないと読み切れないかもしれない。

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コメント

知り合いに 「情報は、NHKと中日新聞で充分」 という人がいます。国会で証言した加戸前愛媛県知事の存在も知りませんでした。既存の大手メディアにとってはありがたい存在ですが・・・・。

けんこう館様
そこにフェイクニュースと同じような情報の歪曲があるかもしれないという疑問を感じる余地はないでしょうね。
日本人がテレビや新聞の情報を信じる割合は、先進国の中では突出して高いそうです。

一部のマスコミや新聞、偏向ネット情報だけに顔を向けている人間よりも、Big dataを集めて解析する人工知能の方がより真実に近づくことができるかもです。

昨日実はテンセントの人工知能、babyQが私のところにやってきました。膨大な中国人の会話情報から堂々と共産党批判をしはじめたという驚異の人工知能です(笑)
http://blue.ap.teacup.com/applet/salsa2001/5186/trackback

Hiroshi様
Big Dataを解析するソフトに何らかのバイアスがかかることもあり得ることです。
それを誰が究明できるのでしょうか。
情報操作はますます巧妙になってきそうで、未来はあまり明るくないのかもしれません。
私はたぶんそんな時代が来る前に退場することになるでしょう。
Big Brotherが支配する『1984年』のような世界が中国に現実化したりしないことを祈ります。

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