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2017年12月 9日 (土)

佐藤愛子『それでもこの世は悪くなかった』(文藝新書)

 彼女の本を読んで元気をもらった、という投書がたくさん寄せられるそうである。それに対して誰かを励まそうと思って書いたことなどない、と佐藤愛子はいう。そのとおりであろう。

 彼女の生きざまが語られている。彼女のような生き方を普通の人が出来るかといえば、なかなか難しいだろうけれど、案外いざとなれば誰でも目を瞑ってエイヤッと難局に取り組むことはあるものだ。その結果がどうであれ、自分で立ち向かえば納得出来るものだ。

 テレビを観ていると、世の中は誰かのせいで私はこんな惨めな思いをしている、と云う人であふれているかのようだ。マスコミや野党の政治家はあなたが悪いのではない、政府や大企業が悪いのだ、などと猫なで声で言う。

 だけれど多くの人はそうではないと知っていて、自分の生き方は自分が選んだものであることを弁えている。

 佐藤愛子に力づけられる人は、このように自分を自分として生きていて、いくらお粗末な結果であっても好いではないか、と思わせてもらえるのだろう。佐藤愛子は強い女性であるが、特殊な人ではない。ただ彼女はいろいろな人生の曲がり角で出あった人から受けた一言を支えにする能力に優れている。多分誰もがそのような言葉を受けているけれど、その素晴らしさに気付かずに見過ごしてしまっているのかもしれない。

 彼女が直木賞をもらった『戦いすんで日が暮れて』という本を母が読んで感激して「お前も読め」と渡されて読んだ。何という猛烈なおばさんか、というのがそのときの印象だったが、そのことよりも母がどうしてそこまで感激したのかがずっと気になっていた。

 父は軍隊生活が長く、ときに爆発的に激怒する。口でいうより手の方が早い。日馬富士ではないけれど、かなり強烈に暴力をふるった。私は敏感にその気配を察すると口をつぐむが、母は分かっていて引かずに抗弁する。殴られることもあるし、身をかわして裸足で庭に飛び出して隣家へ逃げ去ることもあった。

 腕力ではかなわないのになぜそこまで怒らせるのか子供心に不思議だったが、母としてはどうしても引き下がれないことがいくつかあったのだと後で分かるようになった。そういう意味ではけっこう強い人だったと思う。

 だから佐藤愛子の本を読み、彼女なりの共感を覚えたのだろう。そんなことをこの本を読んで思いだしていた。母がこの本を読んだらどんなことを言うだろうか。

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コメント

「自分を自分として生きていく」 そのとおりと思います。
他人を責めてばかりの生き方は、自分も否定してるようです。
ところで、体調は良くなられましたか? 
木造船に気をつけて蟹を楽しんでください。

けんこう館様
平常時の6~7割程度には回復しました。
あともう少しです。
海岸が目の前の民宿なので、もしかしたら木造船を見ることが出来るかもしれませんね。
ただ、寒いし雨か雪なので、海岸まで出かける気にならないと思います。

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