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2018年2月11日 (日)

石原慎太郎『凶獣』(幻冬舎)

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 こういう事件ものを扱ったノンフィクションはあまり読まない。しかしこの池田小の事件を起こした詫間守については、その残虐で理不尽な行為があまりにも理解不能であるがゆえに、なんとなく理由付けを求めてしまう。しかも石原慎太郎がそれを詳細に調べて書いたらしいと思えば多少興味が湧こうというものだ。

 一読して感じるのは、どうしてこのような反社会的行為を繰り返し繰り返し起こし続けてきた男がずっと野放しになってきたのかという社会に対する不信感であろう。彼は突発的に池田小事件を起こしたのではない。その伏線とも言うべき事件を山のように起こし続けてきたのだ。もしかすると大きな事件を起こす犯人はその前に犯罪を繰り返しているのではないか。彼だけが特別例外的ではないのだろう。そう思うと、とても恐ろしい。

 加害者ばかりに手厚い人権主義がもたらした不条理だと思いたくないが、被害者たちにとっては確実にそうとしか思えないことだろう。

 書かれている内容が極めて不快なので、なおさら石原慎太郎の文章の理解しにくい部分が気になる。以下にいくつか本文中から抜粋する。別に違和感がないという人も多いのかもしれない。それなら私の方が少し歪んでいるのか理解力が劣っているのか。

例1(12頁)
 となればわれわれは人間の存在なるもの、その態様の在り方を一体何に依頼し期待したらいいのだろうか。その相手が人間なる生物を創造した神というなら、誕生した後、自らの将来を自らで規定しきれぬ人間の人生には所詮人間当人の意思は及びきれぬということなのだろうか。

(意思が及びきれる人生とは何か。そんなこと長く生きた石原センセなら妄想だと承知ではないのか)

例2(59頁)
 とまれ私としてはこの地上に生命を付与して私たちを存在として与えた神のいかなる意思が詫間守という一人の男を使役した異形な事実を事実としてたどることで、人間の宿命についてせめても納得を得られればと思うのだが。

(この文章をすらすらと読み取るだけの力が私には無い) 

例3(71頁)
 後になって二人の結婚生活が彼女の思いもかけず荒廃してしまった中で離婚を思い立ち実家に逃れて戻った時、彼女は自分がなぜあんな男に魅かれ結婚に踏み切ったのかを自分に問うて思い返してみた。

(とにかく句読点が少ないので主語がどこにかかるのか分かりにくいし、助詞の使い方に癖があるので読み難いのである)

例4(110頁)
 そこには人生なるものの誰が、何が仕組んだのかうかがい知れぬ、如何なる人間の想像も超えた神秘ともいえる感情の仕組みがうかがえる。詫間にとっての彼女との出会いは余人から眺めれば何百兆分の一の可能性といえたのかもしれない。

(人類はすべてあわせても七十億人くらいしかないし、人類発生以来すべて足しても絶対に一兆を越えることもない。何百兆分の一とはビヒィズス菌も含めてか?こういう非科学的で突拍子のなさは疲れる)

 それほど厚い本ではないし、難しいことが書かれている本ではないけれど、しばしば文章に引っかかってしまってこちらはかぎ裂きだらけになった。これが石原慎太郎という人の個性なのか老化したための劣化なのか。

 詫間守は最後に獄中結婚をしている。四人目の妻である。その女性は強固な死刑反対論者で、売名のためではなく、宗教的信念のもとに獄中結婚したそうだ。売名行為としか思えないけれど獄中結婚の申し込みを打診した女性は複数あったという。

 なんだかその異常性に寒気を覚える話である。この世には地獄に通じる穴がところどころ口を開いているらしい。被害者も浮かばれないだろう。

 結局詫間守について何か理解が進んだか?残念ながら全く理解は出来ないままだし、それ以上に世の中の不条理の恐ろしさを思い知らされた。見たくないもの、知りたくないものを見てしまった気がする。

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