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2018年2月21日 (水)

門井慶喜『銀河鉄道の父』(講談社)

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 宮沢賢治の父・宮沢政次郎が主人公であり、彼の目に映る宮沢賢治の一生が描かれている。宮沢賢治に多少なりとも関心を持つ人なら面白く読めるはずだし、読まないのはもったいない。

 世のなかにはさまざまな父親がいるだろうが、私もその父親の一人として素直に政次郎に感情移入した。繰り返し言っていることだが、人を愛するということは相手をかけがえのない存在だと心の底から思うことである。他のひとはどうであれ、私はあなたがいてくれてうれしいと思うことである。

 そして相手も私のことをそう思ってくれればこんなしあわせなことはないが、あくまで主体は私であろう。

 賢治の父、政次郎はまさにそのように息子を、そして家族を愛した。明治生まれの父親は時代の変化による価値観の変化に、ときに遅れながらも理解しようと努めた。

 宮沢賢治という、ある意味で尋常ならざる男を心の底から愛し抜き支え抜いた男の深情が切々と語られている。その掌の上で、宮沢賢治は自由奔放に生き抜くことができたのだ。宮沢賢治は自尊心と世の中の評価の間で悩み抜き、自分をいじめて命を縮めた。

 彼が世に評価されて名声が一気に高まったのは、彼の死後しばらくしてからであった。政次郎は持病を抱えながら84歳まで生きた。

 父親という存在は息子にとって壁であるべきだと思っている。息子は壁を越えなければ一人前にならない。大人になるということ、一人前の男になるということは、その壁を越えたかどうかにかかっている。私にとって私の父親は鉄壁だった。本当に壁を越えたと実感したのは、息子が生まれたときだった。壁などそもそもなかったことをそのとき知った。それまでほとんど口をきくことがなかった父親と、私はようやく普通に会話ができるようになった。

 父がどれほど私を愛し続けてくれていたのか、いまになればとても良く解る。この小説で父と息子の関係についてあらためて深く考えさせてもらった。直木賞受賞作。

 蛇足だが、石川啄木は盛岡中学で宮沢賢治の10年先輩。ただし石川啄木は五年生で退学となっている。

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