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2018年4月 7日 (土)

不器用な人

 世の中にはうらやましいほど器用な人もいれば私のように不器用な人もいる。器用さと生きやすさは多少は関係あると思うが、たいした違いも無くそれなりに生きられるから世のなかはありがたい。

 先日所用で名古屋駅前に出掛け、その足でゲートタワー内の本屋に立ち寄った。お目当ての本がとくにあったわけではないが、気がついたらいつものような両手にいっぱい本を抱えてレジの前に立っていた。

 読むよりも買う本の方が多い。読まない本は無駄ではないかと思う人が普通だろう。確かにそうである。私は読むことも好きだけれど、本を買いそろえることにも大きな喜びを感じているらしい。それなりの快感があり、しかもあまり後悔しないのだからそれで良いのである。部屋の空間を占拠している本の山を前にして、食べきれないほどのご馳走を前によだれを垂らしている餓鬼と同じ顔をしているのかも知れない。どれから食べようかな、というわけである。

 抱えている本をレジの若い男性に手渡す。彼が思っていたよりも多くて重かったのだろう、取り落としそうになる。大丈夫かな、と感じる。本の扱いやカードの確認、お金の収受全てがなんとなく危なっかしいのである。ああ、新人君かあ、と思った。本人はなんとか手際よくやろうとするからますます危なっかしい。

「紙袋にお入れしてもよろしいですか?」、「お願いします」これは彼だけではなくてよく聞かれることだけれど、断る人がいるからこう聞くのか、それともそもそも意味がない言葉なのか。これだけの本をバラでどうやって持ち帰るというのか?しかしこれは彼が非難されるべきことではない。

 紙袋を二重にする。それもたどたどしい。そして本を収めようとするのだけれど、バランス良く入れられないらしく狭いレジのスペースで本を入れたり出したりしている。やがて・・・

 紙袋はレジの床に落下し、中の本が散らばった。

 たいていの本はほとんど損傷がなかったけれど、一冊、葉室麟の本は表紙の一部が破れてしまった。「すみませんすみません」と彼は言い、「交換します」。まあ当然であろう。別の場所の画面を覗きに行き、「良かった。在庫がありました」。この本は新刊で平棚に山積みだったから在庫がないはずはない。そもそも売れ筋の本を知らないというのも書店員としてはいかがなことかと思うけれど、新人君だから仕方がないか。

 しかしそれほど離れていないところの棚にある本を取りに行ったはずなのに待てど暮らせど帰ってこない。五分ほどボンヤリ待っているとようやく「ありましたありました」と嬉しそうに帰ってきた。

 待っている間に隣のレジの女性が苦笑いしながら私に軽く頭を下げたので、気の短い私も笑い返していて、ちっとも腹は立っていない。心の中でがんばれよ、といいながらレジを後にした。しかし本のことをほとんど知らなそうな上にあの不器用さだと、これからかなり苦労するだろうなあと他人事ながら同情した。

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コメント

慣れてない人がモタモタしてるのには腹は立ちませんが、ベテランの横柄な態度には腹が立ちます。(我慢しますが・・・)

けんこう館様
一生懸命やっているのが分かっていれば余り腹はたたないものです。
謙虚さのない人にはおっしゃるように不快な気持になりますね。
それと、客であることを理由に、ことさらに上から目線で居丈高な人を見ると、私は最も腹が立ちます。
三波春夫の残した悪い遺産だと思います。
お客様は神様などではなく、対等な人間ですから。

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