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2018年4月22日 (日)

丸三年

 先日事故から丸三年が経ったセウォル号事故のドキュメントを見た。丸三年経ってようやく明らかになったこともあるし、まだ明らかでないこともたくさんあるし、永遠に明らかにならないことはそれ以上にあるのだろう。

 この事故での船長以下乗組員の無責任さ、そして海洋警察の不手際が告発され、あとで法で裁かれた。ほとんどの人が助けられた可能性があるのに助けられなかった責任が問われたのである。助けられなかったというよりも、「助けなかった」ことを数々の証言や当時の映像が語っている。思えば当時の朴槿恵大統領政権が国民からの信頼を失墜したのもこれがきっかけだったようにも思う。

 だから韓国は・・・などというつもりはない。そういう言葉はいつでも自分自身に返ってくる言葉で、日本で同じことが起こらないと誰が言えるだろう。人はそれぞれの役割に応じた責任があるけれど、いまは責任の自覚に欠ける人がずいぶん多いように感じる。不思議なことに他者の責任を激しく非難する人ほど自分の責任には鈍感ではないか、などと思う。このドキュメントでも命がけで人を助けた人は黙して語らず、三年経ってようやく取材に応じたと報じていた。

 自分だったらどうするのか、そのことを自分に問う。英雄的な行動はできないかも知れないけれど、せめて危機は常にあることを念頭に置くことはできる。危機にあるときに他者の責任を問うてばかりいても助からない。

 ドキュメントでは船員たちより早く携帯から事故を連絡した少年の、そのやりとりの記録が公開されていた。そのときの海洋警察の担当者は情況を理解しようとせず、少年が乗組員だと思い込んで少年が答えようのない質問を無意味に繰り返して時間を空費していた。相手の話を聞き、そして理解しようという当たり前のことができない、パニックになっていたのはその少年ではなく海洋警察の担当者だった。少年は亡くなっている。

 それでもそのやりとりで危機を察知して現場へ駆けつけた船があった。漁船監視船の船長である。彼が40キロあまりの距離を急行し、現地に着いたとき、回りにはたくさんの船が集まっていた。ところがセウォル号に人影があるのに誰も救助しようとしていない。それは当時の映像でも見たことのある不思議な光景だった。救助が始まったのは、急行したその小さな漁船監視船がそのままセウォル号に横付けして乗客を乗せ始めたのを見てからだった。

 次から次に船から人が出てきた。その様子は漁船監視船の船長のヘルメットに据え付けられたカメラの映像に捉えられていた。最後の最後に助けられた少年が船内の様子を克明に語っている。九死に一生を得たこの少年もこの監視船の船長が助けている。

 現場に急行した海洋警察の船は、いち早く乗組員たち(だけ)を助けた。しかし誰一人船内に乗り込んで救助をしようとしたものはなかった。乗客の中には自分が逃げることよりも傾く船内で必死で救助を続けた人がいて、このドキュメントの中で船内の様子を語ったあと、その人は心の中から絞り出すように「あれは虐殺だった」とぽつりと言った。いまも助けられなかった人の姿を夢に見るという。

 たまたまそのあと『相棒』というドラマの劇場版『相棒Ⅳ』を見た。戦争中南洋の島で取り残された少年が生きのびて、大人になってようやく帰国したとき、すでに自分は死んだことになっていることを知る。彼は二重に自分を捨てた国に復讐するためにテロリストになるという話だ。ここではいち早く民間人を残して軍隊が引き揚げていく姿が描かれていた。

 軍隊がいち早く民間人を残して逃げたのは満州でも朝鮮半島でも同様である。本土決戦に備えるという名目はあっても、民間人を守るべき軍隊が、民間人を見殺しにしたことは厳然たる事実である。そのときに逃げた兵士達は責任を感じたか。それを命じた軍部の責任者は責任を感じたか。その責任を問われたか。

 五木寛之もそのとき平壌にいて、逃げ惑い、ようやく帰国できたという経験をしている。彼が自ら「デラシネ(根無し草)」を名乗るのはそういう背景がある。

 原発事故の責任問題も同様だろう。なぜ事故が起こった原発と無事だった原発があるのか、事故発生後の避難指示は適切だったのか、開示すべき情報は開示されていたのか、それらの責任は本当に問われたのか。

 これらは違う話だけれどたぶん違う話ではないように思う。いま安倍政権はあまりにお粗末な姿を国民の前にさらしている。それを嬉々として断罪しようとする野党がいる。慰安婦問題で誤報を三十年も放置した朝日新聞は正義をとなえて政府を攻撃している。

 世の中というのはそんなもので、しかたのないものなのだろうか。テロリストが生まれるのはそういうときではないのかと恐ろしい気持になる。

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