長谷川慶太郎『大局を読む 日本の難題』(徳間書店)
いつもよりすこし長いスパンで世の動向を予測する。いつものように、長谷川慶太郎の日本のこれからについての予測は全体とすれば比較的に楽観的である。
まず東京オリンピック後に日本には景気低迷が訪れるだろうという。これは必然であろうと私も思う。本格的な高齢化社会の到来、人手不足、住宅需要はとくに冷え込むのは明らかだ。そしてひき続くデフレによる将来不安からの需要の低迷により、自民党政権に危機がやってくるという。景気低迷は時の政府の責任と見做されるからだ。といっても誰かが抜本的に景気を立て直すことが出来ることではない。社会福祉費の増大がそこを直撃するのは避けようがない。いわゆる2025年問題(団塊の世代が全て後期高齢者となる)があるからだ。
マイナス金利は銀行の収益をどんどん減らし続け、店舗はどんどん減り、当然大幅なリストラが行われ、銀行は斜陽産業になるだろうという。自動車業界はEV化の波に乗れるかどうかで帰趨が決まる。ただしこの点については長谷川慶太郎は日本が勝ち残るだろうと予言する。EV化は電池の性能にその命運がかかっている。その点で日本は後れをとらないというのである。
一番気になる朝鮮半島については、北朝鮮はなんの脅威でもないから気にする必要は無いと断言する。そして韓国にはほとんど期待できないとみているようだ。とくに文在寅大統領の政策は韓国経済を再び興隆させることはあり得ず、日本にも中国にも本気で相手にされない状態になるとみているようだ。
アメリカは世界と関わり続ければ引き続き好調が期待できるとみているようで、アメリカ第一主義を進めて孤立していけば衰退するかも知れないが、長谷川慶太郎はアメリカは世界に積極的に関わり続けるはずと見越しているようだ。しかしトランプ大統領はそうするだろうか。
イギリスはEU離脱後にTPPに参加する意向であるという。初めて聞いたことだが、それはイギリスにとってもTPP11にもメリットのある話だろう。
中国は国営ゾンビ企業のリストラに踏み込まないかぎり、いつかは経済の限界を迎えてしまうという。国営企業にメスを入れるのは共産党自体に激しい痛みを伴うのである。可能だろうか。それはすこし先のことになるだろうが、中国がイノベーションに成功して壁を乗り越えるのはかなり困難ではないかと見ているようだ。自由競争と自由な情報交換のない世界でイノベーションは出来ないと断言している。
この本は二月に書かれているから、いまの北朝鮮の突然の融和策は織り込まれていない。しかしどちらにしても長谷川慶太郎の予測が大きく変わることはないだろう。彼の予測を指標にして、中期的な視点で世の中の動きを見ていくのをいつも楽しみにしている。何しろ私には自分でとうこうできる話ではないから、高みの見物なのである。
私は長谷川氏の「EV化は電池の性能にその命運がかかっている」という発想は過去の成功体験にとらわれすぎていると考える方です。理由は以下のblog、まさに今日書いたばかしです。
http://blue.ap.teacup.com/applet/salsa2001/5298/trackback
素人が専門家に対して傲慢なことですが(汗) さてこれも外れる予想となりましか?(笑)
投稿: Hiroshi | 2018年4月 3日 (火) 19時02分
Hiroshi様
電池の問題については在職中に最先端で頑張っている会社と縁があって、多少は知識があります。
それももはやかなりの時間を経過して古い認識なのでしょうが、長谷川慶太郎が言っていることは私のささやかな知識に合致します。
そして長谷川慶太郎はそういう最先端のメーカーからの最新情報をもとに発言していますから、「過去の成功体験にとらわれすぎている」とは思いません。
結果は数年先に明らかになることでしょう。
ところで日本にシステムの問題があることについては同意します。
それをどう解決するのか、その問題意識が社会に欠けていることも確かですね。
政治家でいえば、いまの野党にはとくに欠けているような気がします。
変化をもっとも恐れているのは彼らのような気がしてなりません。
投稿: OKCHAN | 2018年4月 3日 (火) 19時27分
野口悠紀雄氏はグローバル化で製造業は新興国との競争になるので先進国は高度なサービス産業に移行せざるを得ないが、日本は製造業での成功体験があるので踏み出しきれないと言われます。
http://blue.ap.teacup.com/applet/salsa2001/4915/trackback
正直に言えば、私も長いこと製造業でないと1億の国民を養えないと思っていましたので納得できなかった点でしたが、最近は段々そのように考えはじめています。おっしゃる通りいずれその真偽は明らかになるでしょう。
http://blue.ap.teacup.com/applet/salsa2001/2715/trackback
それと、何も私は野党を支持するわけではなく、それどころか、一度の政権交代で深く旧民主党には深く失望した口。なにより戦後のこの国を形作ってきたのは自民党。口だけの野党に責任を着せるのは間違いでしょう。
投稿: Hiroshi | 2018年4月 4日 (水) 07時23分
Hiroshi様
自民党や官僚がお粗末な体たらくをさらしているのは嘆かわしいことだと私も思っています。
しかし日本をつまり日本人をこれからどうしていくのかというビジョンが呈示できない野党にはとことん愛想が尽きています。
批判と反対しかしない野党がそういう状況を生み出しているという意味で野党の責任を言っているのです。
先進国は高度なサービス業に移行するのが必然かどうか。
製造会社に奉職し、製造会社を得意先として営業をして、グローバル化と共に新興国とのコスト競争に巻き込まれ、衰退していくさまざまな製造会社の様子を目の当たりにした私ですが、グローバル化が進むことで競争力が復活するはずだというのが私の夢想です。
何しろ新興国もコストがどんどんあがっていくのであって、低コスト国は次第に希少なものになっていくはずですから。
世界はそういう意味で平準化に向かうと夢見ています。
まだまだ先のことですが。
韓国や中国の経済の行方が気になるのはその流れを読むためでもあります。
投稿: OKCHAN | 2018年4月 4日 (水) 07時46分
ここでの解説を読んでから 紹介されている本を読むと面白さが一層増します
この本も読んでみたくなりました
時々紹介される本を楽しみにしています
投稿: イッペイ | 2018年4月 4日 (水) 10時13分
イッペイ様
解説と云われるほどのものではありませんが、読んでいただくだけで嬉しいです。
書かれていることをどう受け取るかは人それぞれですが、賛成であれ反対であれ、一つの考える上での手がかりになれば書いた甲斐があります。
岩見沢にも春が来たようですね。
投稿: OKCHAN | 2018年4月 4日 (水) 11時09分