映画寸評(4)
『ザ・マシーン』2013年イギリス映画。
監督カラドッグ・ジェームズ、出演ケイティ・ロッツ、トビー・スティーヴンス他。
台湾をめぐって中国とアメリカは戦争状態に入っている。戦死した、または瀕死の兵士の身体を再生強化し、強力な兵士にするための研究が行われている。そんな仕事はしたくないのだが、ある理由があってそこで働く天才的科学者がいる。彼にはどうしてもやり遂げたいことがあった。
脳の再生プログラミングを研究して行き詰まったとき、一人の女性研究者に出会い、彼女のユニークな発想と能力を知り、助手にする。彼女は自分がどんな仕事をすることになるのか知らない。
研究所に入って体験する異様な体験の数々。そして博士の苦悩も知ることになる。研究はその非人間性をますます顕わにし、研究材料にされている兵士たち、すなわちサイボーグであり、アンドロイドたちは自分の存在について疑念を抱き出す。
軍はそれらの兆候を知り、それらをコントロールしようとする。そんな矢先に助手の女性が中国からの暗殺者に殺されてしまう。しかし博士はある目的からから彼女の了解を得て彼女の脳の神経回路などを全てコピーしてあった。こうして彼女の頭脳と強力な身体を持った最強の存在が生み出される。『ザ・マシーン』である。
彼女が次第に知性を貯え、人間と同じように感情を持ち始め、サイボーグやアンドロイドと関わりを持ち、成長していく。軍にとっては期待通りの最強マシーンのはずだったが、それは期待以上の存在に変貌していく。
人間の頭脳を機械は越えられるのか。コンピューターが感情を持ち、学習能力も備えて進化していくとどうなるのか、それは近い将来大きな問題となるだろう。この映画はそれをテーマにしているが、カルト映画らしい軽さもあるから深刻に考えるまもなく物語はなるようになっていく。
ところで彼女の原体である女性は突然中国のスパイらしき男に殺されるのだが、それが軍の仕掛けた謀略だと私には思えたがそれは説明されていないようである。彼女が死なないと『ザ・マシーン』は誕生しない(死ななくても作ることは論理的に可能なのだが、博士は彼女が死ななければ彼女を作り出そうとはしなかっただろう)から必然性を持たせたのだろうが、最後に軍は『ザ・マシーン』に殺戮衝動を植え込むためにそのスパイを殺させるあたり、軍の仕業だったように思う。スパイは彼女を殺すくらいなら博士を殺すはずだからである。
『マン・ダウン 戦士の約束』2015年アメリカ映画。
監督ディート・モンティエル、出演シャイア・ラブーフ、ジェイ・コートニー、ゲイリー・オールドマン他。
暗闇の廃墟のような建物の前で銃を手にして身震いし、激しい息をついているひげ面の男がいる。彼はほのかに灯りのもれるその建物に侵入し、やがてかがみ込む。そこには少年が眠り込んでいる。男は少年を抱きしめて、「お父さんだ、助けに来た」とささやく。
物語は三つの時制を並行して進む。一つは妻子がありながら友人に誘われて海兵隊に入隊し、兵士として鍛え上げられ、やがて戦場に立って戦闘を続けていく物語。それを回想としてゲーリー・オールドマン扮する軍の男が聞き取っていく。やがてこの戦いの中である事件があり、この男にはトラウマがあるらしいことが分かってくる。
もう一つは彼が戦争から帰り、最愛の妻子と再会できたのに鬱屈した日々を送る姿である。帰国を心から喜べない理由は、彼が従軍中に受けたPTSDによるものだけではないことがほのめかされる。
そしてもう一つでは、世界は第三次世界大戦でもあったかのような荒廃した姿をしており、彼は誰とも知らない敵と戦っている。彼の目的はさらわれた息子を探し出すことである。最初の、暗闇でひげ面の男が立ち尽くすのはこの世界である。
この全ての主人公(もちろん同じ男なのだから)をシャイア・ラブーフが演じている。最初のひげ面では彼だと分からなかった。その他の時制では地で出ているから見分けることができる。シャイア・ラブーフといえば『トランスフォーマー』での彼を思い出すが、全くそんな軽さも明るさも見られない映画になっている。
映画がすすむに従って全ての物語が収斂していく。いったい戦場でなにがあったのか、そして彼は何を抱えているのか、それが見えたとき、悲劇が明らかになっていく。ちょっと精神的に堪えるこわい映画である。そのことは最後のテロップに説明されている。
『マン・ダウン』は彼が息子と交わしたある意味を表すための二人だけの合い言葉であるが、最後に本来の意味をもって強烈に響いてくる。
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