葉室麟『玄鳥さりて』(新潮社)
玄鳥とは燕のことである。
人が人をかけがえのないものとして思い続けること、それに身命を賭すこともいとわない思いがあることを、物語として語る。同時に人は、ああはなりたくないと思うような人間にいつの間にかなってしまうものでもあることを語る。
財務省のエリート官僚も入省したときはそれなりに国のために働くつもりであっただろう。それが人によってはあの体たらくになってしまうのである。
葉室麟の小説では歴史小説もあり、剣の強い人間が出るいわゆるチャンバラもの、そして芸術家や詩人、女性が主人公のものがあって、それぞれに面白いけれど、やはり剣での闘いがあるものが読みやすく面白い。
ある意味でこの小説は、三浦圭吾という少年が次第に成長していく姿を描いていくビルドゥングスロマンである。その彼を陰で支え続ける剣の達人、樋口六郎兵衛との関係が次第にねじれていきながらも、そこに生き続ける限りないやさしさが二人を救っていく。どうして圭吾は守られ続けるのか、そのことは最後の方で明らかにされる。
葉室麟の作り上げた世界を心から楽しむことができる。今回は強さだけではなく、人の弱さも描かれている。
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