映画『さざなみ』2015年イギリス映画
監督アンドリュー・ヘイ、出演シャーロット・ランプリング、トム・コーティネイ他。
原題は『45 Years』。ほとんどが熟年夫婦の会話で構成された静かな映画である。それなのに飽きずに最後まで観てしまうのはこの二人の俳優の名演と演出の素晴らしさのゆえであろう。心に沁みる好い映画だった。調べたらベルリン映画祭で主演男優賞と主演女優賞を取った作品だという。
結婚45周年のパーティを土曜日に控えた夫婦。そんな月曜日の朝、夫の元へスイスから一通の手紙が届く。ドイツ語なので妻には読めない。夫は辞書を片手に手紙を読んでいるが、その内容をなかなか話してくれない。
やがてその手紙は夫の昔の恋人の遺体が発見されたので確認に来て欲しい、というものであることが夫の口から語られる。昔スイスの山岳をガイドと三人で歩いているときに、氷河の深いクレバスに落ちたその恋人はそのまま助からなかったのだ。温暖化により、氷に閉じこめられたその遺体が見つかったという。
妻の目から見ていると、それからの夫の様子はいつもと違うのである。夫がその女性の面影を追っていることが分かるのである。互いに微妙な気持のズレを感じ始めた二人だが、そこで感情的になることはない。感情的になることでなにかが解決されると云うよりも、なにかが壊れてしまうことが分かっているのである。過去の死んでしまった女性に嫉妬する自分に苛立ちながら自制する妻。その妻の気持ちを感じながらも思い出に気持が揺れる夫。
「もし彼女が死ななかったらその女性と結婚した?」と問う妻に夫は「YES」、「そのつもりだった」と正直にこたえる。
こうして土曜日のパーティまでの一日一日の二人の生活と会話から、それぞれの気持の揺らぎが描き出されていく。この揺らぎを表すために邦題は「さざなみ」としたのだろう。心のさざなみである。
結末は実際に見て欲しい。なにかが片付くということはないが、互いが互いを必要としているということを受け入れればそれでおさまるのだ。それでもラストのシャーロット・ランプリングのいわく言いがたい眼差しはその内面を表現して忘れられない。
山場らしい山場がなくても(パーティでの夫のスピーチは胸を打つし、山場といえばそれが山場か)すばらしい映画というのは作れるのだと教えられた。それに何しろ大好きなシャーロット・ランプリングが主演なのである。この人、歳をとっても全くその妖しい眼差しの魅力が衰えない。こんな老妻がそばにいたら人生はどれほどすばらしいことかと思うが、かなわぬ高望みである。
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