映画寸評(17)
『おじいさんと草原の小学校』2010年イギリス映画
監督ジャスティン・チャドウィック、出演ナオミ・ハリス、オリヴァー・リトンド他。
この前に観た『サイレントマウンテン』というオーストリア映画もそうだったけれど、この映画も特に期待せずに観たが、観て良かったと思う映画だった。こういうことがあるから手当たり次第に観てしまうのだ。どこに当たりがあるか分からないのである。
題名から想像するようなほのぼのとした映画では決してない。
ケニアはイギリスの植民地だったが、独立して39年後にケニア政府は無償教育制度を導入し、教育を受けたいものにはすべて教育を受けさせると発表した。電気も水道もない村にも小学校が建てられ、子供たちがいっせいにやってくる。定員の三倍以上の生徒たちが押しかけ、机も椅子も足りないなか、授業が始まる。
そこへ杖をついて足を引きずりながら一人の老人がやってくる。マルゲという八十歳のその老人は、自分も授業を受けたいのだという。もちろん断られるのだが、政府は誰にでも教育を受けさせるといったはずだとして、老人は断られても断られてもやってくる。
そしてついに断り切れなくなった女性教師がマルゲの入学を認めて、ここにおじいさんの小学生が誕生する。
彼には切実に文字を覚えたい理由があった。彼がイギリスからの独立運動のなかで凄まじい体験をしたことが断片的に回想されていく。イギリスがどのような支配をしてきたのか、そしてイギリスの支配に与したもの、抵抗したもの、それらが民族どおしの憎悪にまでつながって、ケニアの人々は凄惨で苛酷な年月を送った時代があったのだ。そしてマルゲはまさにそれを体現する人物だった。
そんなマルゲを受け入れたことで生徒の親の一部から女教師は迫害を受け、脅迫にさらされることになる。どんなところにも卑劣な人間というのはいるもので、その行為には肌がざわつくほどの怒りを感じる。
女教師はついに遠方の学校へ転任を命じられ、新しく都会から来た教師がやってくるのだが・・・。
マルゲが立ち上がり、身を挺しての訴えが行われ、事態は急変する。これは実話であり、驚くべきことに数年後、マルゲは国連で演説をした、とナレーションは伝えるのである。好い映画を観た。
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