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2018年5月28日 (月)

内田樹『日本の覚醒のために 内田樹講演集』(晶文社)

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 久しぶりに(でもないか)老師の本を読んだ。たびたび書いているように、老師と私は1950年生まれ、同じ時代を同じ年齢の人間として生きてきた。彼がある時期からひとり娘を男手ひとつで育てたように、私も子供たちを男手ひとつで育て上げた。だからある部分では母親の視点から世の中を見たこともあるという点も共通している。

 それなのになぜあえて老師と呼ぶのか。老師のレトリックに富んだ言説が私を教え導き、思考の世界を拡げ、見えなかったものが見えるようにしてくれたから師であると思っているのだ。たぶん老師の言っていることの万分の一しか受け取れていない不肖の弟子であるし、私が受け取ったことは老師が言わなかったことも多い。勝手解釈、勝手読みの弟子である。でもそれで良いのだと老師も公言している。弟子がそう思えば師は師なのである。

 不肖の弟子は政治的なスタンスが老師と全く違う。その部分は読み飛ばしたいところだが、弟子はきちんと読み、そのレトリックに唸らされ、なるほどと思いながら賛同しない。SHIELDsに賛同する老師に不肖の弟子は首をひねるだけである。

 この本でも政治的なこと、憲法改正についても論じられている。しかしそこのところはそれとして、私が深く感ずるものがあったのは、伊丹十三についての講演である。江藤淳と並んで戦中派の尊敬する先達として絶賛している。それは私の最も共感するところである。江藤淳を引き合いに出すところがニクいし、嬉しくて涙が出そうである。私はそれに養老孟司師を加えたいと思う。思えばまさに彼も戦中派なのである。ここでいう戦中派とはなにか、説明すると長くなるのでまたの機会にするとして(たぶんわすれるけど)、どうしても識りたければこの本を読んで欲しい。よく分かるはずである。

 老師は伊丹十三を語るについて、彼の『ヨーロッパ退屈日記』をベースにしている。二十代で読み、感動し、今回それを読み直してそのときとはレベルの違う感慨を覚え、再読三読詳読したうえでの彼の伊丹十三論なのである。伊丹十三がこの講演を聞いたらどう言うのか想像すると、つい頬が緩んでしまう。伊丹十三は「そこまで深く読み取ってくれてありがとう。俺もそういう意味があるとは気がつかなかった」と笑うだろう。しかしそれは決して怒っているわけでなく、照れ笑いである。

  思えば私も二十代のときに文庫本で『女たちよ!』をはじめとする伊丹十三のエッセイを次々に読んだ。もちろん『ヨーロッパ退屈日記』も読んで感化されるところが多いにあった。一読私の嫌いなスノビズムの匂いに満ちているのに、それに感化されるのはどうしてなのだろうと思ったものだ。それをこの老師の伊丹十三論でようやく得心したのである。人としてなににこだわるのか、そのことの基本を教えられていることを感じたのではないか。生き方のダンディズムを身につけないことは大人として恥ずかしいことだということを教えられたのだと思う。

 しかし『ヨーロッパ退屈日記』には私の浅読みではとても読みとれない深い意味が込められていることを老師は読み解いてみせる。そこに戦中派の矜持とはにかみがあるらしい。それこそが戦前派、そして戦後派にはない、本来の日本人の心棒がありはしないかと見るのである。戦前派も戦後派もその心棒が折れているという指摘(そんな書き方はしていないが私にはそう受け取れた)はよく分かる。

 そしてその心棒にこだわったのが江藤淳であることを私も感じているからよく分かるのである。たぶん養老孟司師のこだわりもそこにあると私は感じている。そしてそれこそがその人達の本を読むことが好きな理由でもある。

 老師も私も戦後派だが、老師の説明でこの私でもいささかそれを感じ取れたことをうれしく思った。大正生まれの両親の思考を浴びて育ち、戦争について歴史ではなく現実にあった直前の過去として考えさせられてきた私には、かろうじてそのことに共感するセンサーがあるようである。

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