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2018年5月31日 (木)

五木寛之『マサカの時代』(新潮新書)

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 五木寛之は1932年生まれ、いま85歳。『さらばモスクワ愚連隊』や『蒼ざめた馬を見よ』、『青年は荒野をめざす』が雑誌に掲載されたものをリアルタイムで読んで影響を受けた身としては、彼の年齢を知り、もうそれだけ時間が経過したのだと実感する。思えば彼も戦中派である。

 彼の小説は『青春の門』以来ほとんど読むことがなくなったけれど、エッセイなどはときどき読んでいるし、『仏教の旅』や『百寺巡礼』などのテレビ番組も観て、相変わらずダンディだなあと思っていた。

 最近のエッセイによればさすがに体力の衰えを自覚しているようだが、かといっていままでの彼独自の、一般の人から見れば不健康に見える生活態度をあらためるつもりはさらさら無いようだ。老いを静かに受け止めながら淡々と生きていて、まことにダンディなのである。

 相変わらずのことが書かれているので、中身はあまり濃いとはいえないが、この本で五木寛之がかなりのユーモリストであることを感じた。思わずほほえんだり、ほんの少し声を出して笑うことまであった。私にしては珍しい。達観した乾いたユーモアは楽しくて気持ちが良いものだ。

 マサカと思うことに遭遇する頻度が増えているという指摘は言われるまでもない実感だが、それを被害者意識ではなく、どう受け取るのか。そのことを考えるきっかけになるかも知れない。諦念とは違う、矜持を持ちながらの受け入れ方は、自分の生きる姿勢そのものだろう。世の中の歪みが多少我慢しにくくなっている気分のときに、こういう本を読むのもいいかも知れない。

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