驕り・補足
司法・立法・行政の三権分立という制度は大変良く出来たものであると信じる。他国で見聞きする政治的な問題はそのバランスを失ったことによるものか、またはそもそもバランスが最初から考慮されていないことによるもののような気がする。
アメリカのトランプ大統領の暴走も、大統領の権限があまりに強いことに起因するのではないか。しかしながらアメリカにはそれを復元する巧妙なシステムが構築されているし、なによりメディアがそれなりの役割を果たしているという強みがある。経済がよほど毀損しなければ、なんとかなっていくのがアメリカという国だろう。貿易戦争でその経済がどれほど悪影響を受けるのか、それはこれから分かってくるだろう。
韓国はやはり大統領制で、その大統領権限が強すぎることで立法も司法もそれに影響されすぎて歪んでいるように見える。しかもメディアはポプュリズムに支配されてそれを正義と考えているから、その弊害も大きいように見える。韓国経済はその影響をまともに受けてこれから厳しいことになるような気配である。
トルコは建国の父アタチュルク以来、三権分立を守ってきた。それが国にとって、そして国民にとって最も良いことだと信じて憲法にも明記し、守ってきたのである。それがエルドアン大統領になり、憲法が改正され、大統領に強権が認められるようになった。そのような国がどのような推移をたどるのか、興味深い。泉下のアタチュルクはいまどのような思いでトルコを見ているのだろう。
中国は一党独裁の国、行政が突出して強権の国である。司法も立法もその支配下にあり、それらの上に共産党があり、それを習近平が支配している。行政が突出しているシステムは必然的に腐敗を生む。行政執行者に強大な権限があり、利権が生ずる。そしてそれをチェックするはずの司法や立法は行政の下位にあるのであるから腐敗するのは当然である。だから習近平は司法の代わりに腐敗撲滅の役割を推進せざるをえないのである。そうでなければ国は内部から腐って崩壊してしまうことは長い中国の歴史が証明しているのである。
いま安倍政権が危ういのは、行政が司法や立法よりもいささか突出しているからである。立法府が野党の無能によって正常に機能しなくなり、司法が政府の顔色をうかがう傾向がありはしないか。しからば行政のチェック機能が正常に働かない。その上マスメディアは政権や官僚からの情報を垂れ流すか、感情的な善悪論に終始している。
どうしてこれほど官僚の不祥事が続出するのか明らかである。行政が突出しつつあることで官僚に強権が与えられ、または与えられていると錯覚し、腐敗が進行しているのである。安倍晋三本人の周囲がきな臭いのも必然である。腐敗の必然的な状況にあることの認識を欠いていると、個別の問題としてしかとらえることができない。
安倍政権の驕りはすでに日本を蝕みかけているような気配であり、安倍政権自体が悪であるかどうかということを別にして、政権の持続はもうしない方が良く交替すべきだ、というのが私の見立てである。
これは本論と別だが、この前の前に書いたブログの長谷川慶太郎『異形の大国を操る習近平の真意』についてけんこう館様とHiroshi様からコメントをいただいた。そのことで自分なりに考えたことをお返ししたのだが、わざわざコメントの欄を読まない人も多いと思う。公開しているコメントであるからこちらに引き写してもかまわないと判断し、転載する。
コメント
中国とは、のらりくらりで深入りしないほうが得策と思います。移民もシッカリ考えておかないと、気づいたら中国人ばかりということになったら日本の国柄が変わってしまいます。
投稿: けんこう館 | 2018年7月11日 (水) 13時17分
その本でも議論されているかもしれませんが、私は現代中国の最大の危機は「人口学的時限爆弾」だと思っています。
http://blue.ap.teacup.com/applet/salsa2001/1928/trackback
中国史の中でも何度も起こりましたし、
http://blue.ap.teacup.com/applet/salsa2001/4401/trackback
西欧史の中でも、最近だとイスラーム過激派の出現をそれで説明している人もいるくらいです。
http://blue.ap.teacup.com/applet/salsa2001/33/trackback
最近、この人口調節を推進したのが社会学者でも、経済学者でもないロケット科学者であったという本を読み、驚くと同時に「だからそのもつ危険性を認識できなかったのだ」と納得しました。
http://blue.ap.teacup.com/applet/salsa2001/5417/trackback
投稿: Hiroshi | 2018年7月11日 (水) 13時32分
追伸:本を読んでいないのでどのような理由で長谷川氏が「一帯一路」に参加すべきと述べられているのかは知りませんが、私もこの人口動向から参加すべきだと思います。ただしTPPと天秤をかけつつ。この10年近く、何度も上海浦東空港に着陸した時、その変化に驚かされるものとしては特に。
http://blue.ap.teacup.com/applet/salsa2001/5397/trackback
また、ほとんど日本では議論されていませんが「一帯一路」は歴史的に補完的というよりも競合的であったという事実も忘れてはならないでしょう。 それは中国の国力を削ぐ可能性もあります。より相補的なのはTPPかと。
http://blue.ap.teacup.com/applet/salsa2001/4921/trackback
投稿: Hiroshi | 2018年7月11日 (水) 13時55分
Hiroshi様
その件に関してはさまざまに論じられ始めていますが、近藤大介『未来の中国年表』(講談社現代新書)という本に詳しそうなので近々読むつもりです。
2049年の建国100周年を5億人の老人が祝うことになるというその惹句はまさにその状況を表すものだと思います。
投稿: OKCHAN | 2018年7月11日 (水) 13時55分
けんこう館様
中国との関係は好むと好まざると関係なしに深まって行かざるをえないと思います。
そのときに日本人のアイデンティティが損なわれるのか、日本に増えてくる中国人定住者が日本のアイデンティティを自分のものとして取り込んでいくのか、それが日本がこれからも生き易いか、それとも暮らしにくい国になるかを決めるかも知れませんね。
彼らは日本に来て初めて中国の本当の歴史を知ることになると思います。
というより学んで欲しいものだと願っています。
投稿: OKCHAN | 2018年7月12日 (木) 08時39分
Hiroshi様
中国はすでに社会主義国ではなく資本主義の国になりつつあると思います。
そのことがこの長谷川慶太郎の本の骨子です。
しかし共産党一党支配という羊頭狗肉の看板を下ろすわけにはいかないでしょう。
あれだけ大きな国を経営するには強権がどうしても必要なのかも知れません。
一帯一路を進めるには中国も厖大な資本投下が必要ですから、経済余力が失われると中国の国力を削ぐことになるというHiroshi様の指摘はその通りだろうと思います。
アメリカと中国の覇権主義に対抗するためにTPPはささやかな希望かも知れません。
イギリスもEU離脱に合わせてTPP参加を模索しているといいます。
投稿: OKCHAN | 2018年7月12日 (木) 08時47分
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