映画『蝉しぐれ』2005年・日本映画
監督・黒土三男、出演・市川染五郎、木村佳乃、緒形拳、原田美枝子、今田耕司、ふかわりょう、田村亮、大滝秀治、加藤武、柄本明ほか多数。
いうまでもなく庄内の海坂藩を舞台にした藤沢周平の長編時代小説を原作としている。ずいぶん前に録画したのにずっと観るのをためらっていたのだが、ようやく観た。ためらっていたのは観たらがっかりするだろうと思っていたからで、その自分の勘が正しかったことを知ることになった。
この映画は第29回の日本アカデミーの優秀作品賞、優秀監督賞、優秀脚本賞、優秀主演男優賞、優秀主演女優賞、その他を席巻した。それなら日本アカデミー賞とはなんだ!私の感想とは全く相容れない。(主演を除いて)素晴らしい俳優がぞろぞろ出ていればアカデミー賞なのか。以下に私の評価を書く。酷評である。
映されている景色はたしかに素晴らしいのだが、映像の鮮明度が低く、眠ったようである。これは録画したときのテレビ局の問題か?ほかの映画ではそんなことはないから、そうではないはずだ。とにかく画質が悪い。そして台詞が不明瞭で聞き取りにくい。背景の音や音楽と台詞の音量がアンバランスなのだ。日本映画、それも時代劇にはしばしばこの傾向がある。洋画ではまずないことなので、本質的な問題があるのだろうか。
主演が市川染五郎であることが根本的にミスキャストだ。主人公の牧文四郎は、父が汚名で切腹して艱難辛苦した人物である。その牧文四郎があのような、にやけた顔をしているはずがないではないか。藤沢周平ファンならそう思うだろうと私は考えるがどうだろうか。市川染五郎は『阿修羅城の瞳』という映画でいい演技をしていた。さいわい、にやけたキャラクターにぴったりの役柄だったのだ。ついでだが、その映画の宮沢りえはとても美しかった。
さらに、牧文四郎の親友たち、与之助と逸平を今田耕司とふかわりょうが演じていたが、なにを考えてこんな配役をしたのだろう。お福様の役も木村佳乃では私は不満だがこれは賛否あると思う。
この小説はNHKで7回シリーズとしてドラマ化されている。こちらの牧文四郎は内野聖陽、お福様は水野真紀が演じていた。比べるのが無惨なほど映画の二人よりこちらの役どころの収まり方も演技も優れていた。内野聖陽にはじっと堪え忍ぶ男の強さと内面の燃える炎が見て取れ、水野真紀には品があった。そのドラマでは省略せざるを得ない部分を省略しながら、ストーリーのわかりやすさははるかに優っていた。だからテンポも好いし、見る側の感情移入もしやすかったのである。映画ではシーンに無用に長い部分がしばしばあって、イライラさせられる。しまりがないのである。
テレビドラマの脚本は映画の監督をした黒土三男らしい。しかし演出は彼ではない。その違いもテンポに関わっているかも知れない。
むやみに登場人物を数多く入れすぎて、原作を読んでいない人にはこの映画ではその登場人物が登場する意味が分からないと感じたことだろう。それぞれの人物にその背景があるが、それを描いていたらきりがないのである。思い入れだけで登場させても混乱するばかりだ。それでなくてもそれでせわしないのに、妙なところでテンポがゆっくりしすぎているからイライラしてしまうのである。
久しぶりに映画を観て腹が立った(久しぶりでもないか)。私にとって予感どおりの駄作であった。
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おはようございます
最近の日本映画は予算が少ないせいか駄作が多いですね。
あと俳優さんもダメですし・・・。
これでは同じ駄作だらけだったのでしょうが、昭和30年代の映画の方がはるかに面白い気がします。
では、
shinzei拝
投稿: shinzei | 2018年7月25日 (水) 06時38分
私もNHKのドラマの方がいいですね
映画の方は何故か白々しく思えました
映画も演じる俳優がいかに大切かつくづく実感します
投稿: イッペイ | 2018年7月25日 (水) 09時03分
shinzei様
ミスキャストは致命的です。
それと、もともとの俳優ではないタレントを人気だけで起用した場合に(大当たりもときにはありますが)、あまりの演技のお粗末さからうんざりすることがあります。
キムタクなどはその代表です。
『武士の一分』など、絶望的な駄作となってしまいました。
嵐のメンバーも私には脇役から浮いてみえます。
投稿: OKCHAN | 2018年7月27日 (金) 18時12分
イッペイ様
ミスキャストは映画にとって致命的です。
その致命的な映画が日本アカデミー賞を総なめにしたことが私には信じられません。
投稿: OKCHAN | 2018年7月27日 (金) 18時14分