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2018年7月19日 (木)

ことばに信がないのに・・・

 政治家のことばに信がないと良く批判される。それは政治家のことばには信があるべきであるという思いがあるからだろう。信などなくてもかまわない、信などそもそもあるはずがない、と思っていたら、ことばに信がないと知らされたときに批判したり怒ったりするはずがないのである。そういう意味で政治家ほど嘘をついてはいけないと思われているわけである。

 それなのに同時に政治家ほど嘘つきはいないとも思われているのが面白い。だから嘘をついてはいけないという建前があるのにボロを出したりすると、とことん叩かれことになるのは日頃のニュースを見ていれば良く分かる。与党や政権や役人の嘘を暴くことに夢中になるマスコミや野党は、だからその建前を信じて見せているわけである。

 もちろん犯罪行為は論外であるが、枝葉末節のあばき立てがしばしばうんざりするのはその建前の嘘くささを感じるからだろう。

 嘘をつかない人はめったにいない。めったにいないけれどいないことはないのである。平然と嘘をつかずに生きている人(嘘をついて生きる人ではない)を知っている。その人は正直に生きるという信念を持っていて、他人の嘘にもきわめて厳格に怒りを向けた。「善い人」で「強い人」ではあるが、つき合いにくい人でもある。却って楽な生き方にもみえたりした。

 人はしばしば嘘をつく。現実の自分より、あるべき自分を語ることは自然なことだと私は思う。そのことで生ずるギャップを埋めるべく、嘘は自分をあるべき姿へ近づける努力のエネルギーになることもあるのである。自分に嘘をつくのもそういうエネルギーを供給するためであることは多い。

 これらのことは日本に特有のことなのだろうか。アメリカでは違うのだろうか。

 トランプ大統領のことばに信はない。なにしろさっき言ったことを平然と翻して恬淡としている。約束したことをひっくり返すことになんの痛痒も感じない人間にみえる。まともな人間の出来ることではない。

 トランプ大統領が、ヘルシンキでプーチン大統領と会談したあとの記者会見でロシア疑惑に関して言ったことをマスコミが批判し、民主党はもちろん与党である共和党の議員達までが強く批判した。それに驚いたのか、トランプ大統領は「言い間違いだった」と言って訂正した。それが報じられたあとの世論調査を知って驚いた。トランプ大統領の支持率も不支持率もほとんど変わらないのである。 

 これだけそのことばに信のないことが明らかになったのに支持率が変わらないというのは、アメリカではことばの信など何の意味も無いと考える人が少なからずいるということを現しているのだろうか。なんだかアメリカという国が分からなくなった。ことばの信をなくすことに鈍感な国とみなされても平気な国は、世界から信頼を失う。いくら強固なシステムに支えられているとはいえ、あまりに傾いてしまってはそのシステムの復元力でも元に戻せないのではないかと心配になる。

 世界がアメリカをもう優先的には相手にしないで生きる道を模索し始めていることを感じていないのだろうか。すでにアメリカが一番である時代が続いて長いのに、アメリカが一番であることを取り戻すとはどういう感覚なのだろう。これ以上なにを奪い取ろうというのだろう。その愚かさはトランプ大統領のことばの信のなさに如実に表れているのかも知れない。その言動でトランプ大統領は自国を貶めているのに、その支持率が変わらない。愚かなのは大統領だけか。

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