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2018年8月30日 (木)

『午後の愉しみ 開高健対談集』(文藝春秋)

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 十五人との対談16篇(吉行淳之介が二回)が収められている。三部に分かれていて、『釣りと食べ物をめぐって』、『文学的なるものをめぐって』、『戦争と人間をめぐって』の表題でそれぞれのテーマが示されている。対談相手が豪勢で、その蘊蓄と諧謔とレトリックを楽しんだ。

 冒頭が團伊玖磨、この人のエッセー集、『パイプのけむり』シリーズで若いときに大人とはどういうものかを教えられた。山ほどのこだわりとふるまいのエチケットをもたなければ大人とはいえないと思い知らされたのである。アラスカの釣りについての大庭みな子との対談は、女性にもこんなに豪快なひとがいるのかと目を見張らされる。

 井伏鱒二との釣り談義は釣りを話しながら文学論を背後に重ねて、大先輩を敬しながら持論を展開していく。天上人の会話の雰囲気がただよう。阿川弘之との食についての対談は、本物の食通とは何かを教えてくれる。およそ凡人のおよばない境地である。

 丸谷才一や吉行淳之介、辻邦生、清水徹との対談ではその蘊蓄がキラキラと輝き、わざと下がかった話しを振り向けながらそのような話の奥底が突き抜けて、文学とは何か、人間とは何かを丁々発止と語り合う。吉行淳之介のはにかみが記憶に残る。

 野坂昭如との戦争と戦後についての語り合いは、観念的な戦争ではない、自分自身のリアルな記憶がもとになっていて、戦争とは何かを知らされるのだが、本当の戦争はその場にいなければ決して分からないことも同時に思い知らされる。これは安岡章太郎や大岡昇平との対談でも同様である。こちらの二人は少し年上で従軍体験があるので、その軍隊での実体験の話は彼等の小説を読み直したい気持にさせる。

 小松左京の博覧強記はよく知られるところだが、それに負けないほどの知識を駆使してあちらを撃ち、こちらを突いてそれに打てば響くように答える小松左京のすごさを引きだしている。武田泰淳との対談では日本に亡命していた中国人たちについての話題が主であり、革命家たちの実態が生々しく語られる。秋瑾女史についての話しなどは興味深い。返す刀で日本赤軍がばっさりと切られているのも面白い。革命とはなにかが観念ではない形で語られるのである。

 最後にラブレーの書(『ガルガンチュワ物語』など)を翻訳した渡辺一夫とのラブレーについての対談が収められている。スカトロジー満載のその書については、以前読み囓って辟易したことがあるが、その背後に隠されたラブレーの書きたかったことが初めて分かった。分かったけれどいまさら読む気力はないが。

 やはり名の知れたひとの底はとてつもなく深いものだということをあらためて知らされるとともに、自分の浅薄さも思い知らされたけれど、この本の中でとりあげられたさまざまな本を読みたい気持になった。何しろ開高健の本はエッセーや対談はずいぶん読んでいるのに、肝心の小説の一部しか読んでいないのである。

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