恒川光太郎『滅びの園』(角川書店)
このような小説を読み、楽しむためにはエネルギーが必要である。世界がどんどん侵食され、人々はそれに対抗するために全力を尽くす。そしてその侵食を食い止めるための方法が、あるひとりの男にかかっていることが分かって来る。
その男、鈴上誠一は現実世界からドロップアウトし、不思議な世界にいた。居心地の好いその世界は、実は彼やさまざまな人の想念の世界であった。地球を侵食する「未知なもの」の中に取り込まれた鈴上誠一の見る世界と、浸食される地球上の人類の攻防が描かれていく。そしてついに人類は「未知なもの」の中に「突入者」を送り込む。「未知なもの」の中の戦いは人類の命運を決するものとなっていく。
オリジナリティあふれる世界と卑近な現実とがごちゃ混ぜにされて呈示されていく。こういう話ではつじつまなどどうでも良い。それでも物語には結末がある。この結末をどう受け取るのか、人類の側に立つのか、鈴上誠一の側に立つのか。私はちょっと鈴上誠一側に立ってしまった。普遍的な人類愛など忘れていた。
これもSFだと思うし、SFってすごいなあと思う。それは人間の想像力のすごさに感心することでもある。それをそのまま受け入れてその世界観を楽しむにはエネルギーが必要なのであり、それが楽しめた自分にちょっと嬉しい思いがした。
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