昨日のブログで、開高健が日本酒について、
「まっとうな原料で、まっとうな水で、まっとうな麹で、まっとうに造っていけば、いい酒が出来ることはわかりきっている」
と語ったことを紹介したが、そのことで思いだしたことがある。
下手の横好きで、子供の時から写真を撮ってきた。ベスタ版という変則フィルムで撮ったもの、ブローニー版のフィルムを使ったセミ判の写真、ヤシカの35ミリ版、そして大学に入ってからミノルタの一眼レフでの写真、それらのフィルムネガはすべて保存していて、ベスタ版は別にして、ほとんどデジタル化してある。
学生時代には寮に同好会があり、引き伸ばし機があったので、自分で現像や引き延ばしもした。いちおう化学屋の端くれなので、現像用の薬品などは自分で購入して調合した。一番大事な温度管理が当時は難しかったのはつらかったが、それらは現像時間などの調整で何とかした。自己満足ではあるが、それなりの写真が撮れた。
カメラと装置と、フィルムと薬品と適正なフィルム現像、引き延ばしと現像定着水洗を行えば、(自分にとって)いい写真が撮れることはわかっている。そしてそのネガがちゃんとしていれば、それをいろいろと加工できて調整も可能である。それなのに・・・である。
デジタルカメラを使うようになるまでの何十年間、写真を撮るとDPE屋に現像とプリントを依頼してきた。カラーは手間もかかるし自分で現像するのが難しいので依頼することになる。出来上がりが自分のイメージと違うことがほとんどだ。もちろんそれほどの腕でもカメラでもないから、人に自慢できるほどのものでないのは分かっているが、でもこの程度には最低撮れているはず、という経験上の推測があるが、それが納得のいくもので仕上がることがほとんどない。
依頼する店によって違いがあることがわかってきた。ひどい店だと、焼き増しのために二回目を頼むと最初の時と同じ写真だろうか?と首をかしげるほど違う仕上がりである。あまりにひどい仕上がりが多いので、最後にはプロも頼むような、ふつうの店の倍近い値段のラボに頼むようになった。不満足ながらだいぶマシな仕上がりになる。しかしそのラボも価格競争の中で依頼する人が減ったのか、プロ専用になって一般用の依頼を受けなくなってしまった。
DPE屋がどれほどひどいか。機械任せで、しかもピント調節もこまめにしていないからピントが甘い。薬品はけちるから使用回数の限度をはるかに超えて使用しているらしく、液がくたびれ果てているから粒子が粗い。液が新しいときと、くたびれたときとで仕上がりがまるで違うので、頼むたびに仕上がりが変わるのは当然なのだ。
それが本当にわかったのは、この世にフィルムスキャナーというものが出て、まだ高かったけれどすぐに購入して、フィルムをデジタル化してパソコンに取り込み、プリントアウトしてみたときだ。DPE屋のものとは同じ写真とは思えないほどちゃんと撮れているではないか。まだそれほどの高画質でスキャンできないスキャナーでも歴然と違いがわかった。それに無理に高画質に取り込もうとすると、当時のものはなにしろとてつもなく時間を食うのである。
大量のネガを整理し、それをスキャンしてファイル化したが、新しいスキャナーがでるとその高性能さでフィルムからの情報がよりたくさん取り込めるようになる。そうするとそれを購入して取り込み直す。その繰り返しを四台のスキャナーで行ってきた。正直くたびれ果てたけれど、私の宝物の一つであるファイルが残されている。
しかし激しい怒りを感じることがある。それはフィルムそのものが損なわれてしまっているものが何本かあることだ。少々のネガ傷くらいならいまは修正も可能だが、フィルムの現像後の水洗が不十分なために薬品が残り、そのことでフィルムが台無しになっているものがあるのだ。自分で水洗し直してみたけれど、わずかにマシになっただけでもう取り返しがつかない。ある時期に集中しているから、特定のいい加減なDPE屋の仕業だろう。
そのネガに映っているのは子どもたちの幼いときの写真である。どこのDPE屋か知らないけれど呪われろ!と思うけれど、そんなところはすでにつぶれてないだろう。
まっとうに仕事をすればちゃんとしたものが出来るのは分かっているのである。それが出来なかったDPE屋のほとんどは街から消滅した。デジタル化が理由だと彼等は言うだろう。デジタル化を推進したのは彼等なのである。彼等自身が自分の仕事を喪失させるようにしたのである。みなが安さを望んだのだ、安くしなければ客も来ないし生き残れなかったのだ、というだろう。言い訳である。客は安さにあきれ果て、安いから仕上がりに文句も言えなかった。
いまデジタル写真は高画質で誰が撮ってもきれいな写真が撮れる。有難いことである。しかし写真は時間を切り取り、時間を定着させるものでもある。それを損なわれた恨みは忘れがたい。それをいい加減な仕事で損なうような人たちは退場が必然なのだ。
(本日から旅に出て不在のため、コメントに返事が出来ません。帰ったらお返ししますのでご容赦下さい)
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