映画『ヴェンジェンス』2017年アメリカ
監督J・マーティン、出演ニコラス・ケイジほか
ある種の報復映画。法の正義が機能しないとき、被害者のかわりにヒーローまたはヒロインが悪に制裁を加えるという映画は数多くあり、この映画もその一つである。ただ、ここでのニコラス・ケイジの演ずる主人公は刑事であり、暴力に強いとはいえヒーローというイメージではない。
正義は立場によってさまざまで、その正義の私的執行には強い逡巡があるのが人間として当然で、それがあまりにも気楽に行われると危ない社会の到来につながる。しばしばハリウッド映画にその弊害を見るが、その言い訳のために悪がとことん悪であるように描く。そしてそれがあまりにエスカレートして極端なバイオレンスシーンが必然になってしまう。
そうなると私的制裁への葛藤が軽くなるわけであるが、この映画にはそのような極端な悪が描かれながら、ニコラス・ケイジの眼は哀しそうである。自分がその役割ではないことを承知しながら制裁を加える主人公を演じていて、私としては好感が持てた。
価値観が多様になり、弁護士がしばしばあり得ないような荒唐無稽な論理で犯人を弁護して無罪を勝ち取るのを見馴れてくると、私的制裁への葛藤逡巡が弱くなる。弁護士は法の正義、弱者保護のために加害者を弁護しているはずだが、それがいつの間にかこのような私的制裁を当然だと世論が考えはじめるきっかけを作っている、と心配するのは私だけだろうか。
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