終わる
『刑事フォイル』がついに最終回を迎えた。第二次世界大戦下の地方都市の警視正として犯罪捜査に従事したフォイルの事件簿として始まったが、最後の数回は警察を依願退職して保安部のMI5に奉職する。終戦後、もともと戦時中に勤めたかった仕事でもあり、ここでもその優れた知能が発揮される。
原題が『フォイル’ズ・ウオー』であって、フォイルが刑事という意味の邦題には多少違和感があるが、それは置いておく。このイギリスドラマのテーマは「戦時下」という特殊な状況下での正義とは何か、ということである。正義が絶対的なものではないことは常識のあるものなら理解できることだと思うが、戦時下では物事の優先順位が平時とは著しく異なっている。正義にもさまざまなレベルが生じてしまい、人によって解釈が変わってしまう。
そこで事件の理非曲直を明快に、そして愚直に解き明かしていくフォイルはときに権力者達から煙たがられる。フォイルはロンドン警視庁で通用する観察力と推理力の持ち主であることは誰もが知りながら、地方都市にくすぶっていたのはそういう背景があってのことだ。
些細に見えた事件にとんでもなく大きな根があってそれがときに上層部や権力者達の暗部があぶり出されたりする。捜査で出あう人たちの人間性や人生が会話の中で垣間見える。それを引き出すのもその意味を読み解くのもフォイルの力だ。フォイルは無理押しをしない。おだやかに問い、相手が語ろうとしないことにこそ意味を読み取る。
戦時であることで隠蔽された不祥事がフォイルの正義によって明らかにされる。戦争とはそういうものだ、という言い訳をフォイルはけっして許さない。それこそがフォイルの戦争なのである。戦争というものがどういうもので、人がそのことによってどんなふうに人生を狂わされたのか、そして戦争という名のもとに見逃されてしまいがちなことにも善悪のけじめをつけずにはおかないフォイルの精神の強靱さが強く共感を呼ぶ。
イギリスのドラマの素晴らしさを堪能できた。終わってしまったのが残念である。脇役のサムことサマンサという女性の魅力もドラマを引き立てていた。
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