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2019年6月21日 (金)

哈爾浜(ハルピン)駅の兇弾

 いま藤井叔禎編『漱石紀行文集』(岩波文庫)という本を読んでいる。この本の本文の半分以上が『満韓ところどころ』という文章で、その部分だけ読み終わった。この本の感想は読了後にまとめて別に書くが、この『満韓ところどころ』という文章の終わり方が唐突な感じがしたので、それには理由があるはずだと思い、巻末の編者の解説を読んでみた。

 

『満韓ところどころ』は日露戦争が終わって間もないときに、大学予備門時代の同期生だった当時の満鉄総裁、中村是公に招かれての朝鮮、支那、満州の旅の記録である。漱石は持病の胃病で苦しんでいて、ようやく癒えかけたところでの旅であり、しばしば胃痛に苦しんでいる。もちろん中村是公に招かれたというだけの旅ではなく、旅のことを紀行文として新聞に連載することも目的であった。

 

 漱石が訪問した先のひとつに哈爾浜(ハルピン)がある。1909年10月26日、その哈爾浜駅構内で伊藤博文が朝鮮のテロリスト安重根によってピストルで撃たれて暗殺された。当時哈爾浜駅はまだロシアの権益内であったので、安重根はロシア官憲に逮捕され、後に日本の関東都督府に引き渡され、翌年三月、安重根は処刑された。

 

 まさに漱石がこの紀行文を連載している最中(漱石自身はすでに帰国していたようだ)の出来事である。日本中が大騒ぎとなっており、漱石の紀行文どころではなくなっていた、ということも理由の一つだったと思われる。解説にはほかにもいくつか考えられる理由が挙げられている。

 

 この解説に掲げられている当時の新聞が興味深かったのでそれを引用する。事件直後は伏せ字が多い記事なので省くが、明確に報じられた10月28日の満州日日新聞の記事。

 

「本月十八日熱誠なる歓喜と期望とを以て伊藤公を大連埠頭に迎へたる吾人は、まさに旬日後の今二十八日に於て、痛切なる悲哀と涕涙とを以て、茲に大連埠頭に公を送らざるべからざる場合に遭遇せり。人世浮沈多く、転変朝に夕を測られずと雖も、旬日の前後を顧みて、人をして殆ど夢に居るの感あらしむ。天の帝国と帝国の大政治家とに禍する何ぞ一に是に至るや(中略)
 公今回満州に遊びて北の方哈爾浜に入るや、図らずも兇漢ありて公に危害を加ふるに会す、公齢七十有二、壮時維新に際して死生の間に出入し、後亦身命を忘れて国事に尽くし、現に自ら近親に対し毫も暗殺せらるゝを厭わずと語れりと謂ふと雖も、国民の何人が公をして此惨禍に罹らしむるを予期せるものあらんや、公に於ては或は以て非とせざらんも、国民の至情に至つては蓋し忍ベからざる也
 いまや公は本日を以て秋津島に搭乗して帰朝の途に上らる、吾人は謹んで海路の平穏を祈り、さらに公の帰朝後万一の不祥事なからんことを皇天に哀求す」

 

 伊藤博文が暗殺されたその当時をいささかなりと感じる気がしないだろうか。

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