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2020年1月 7日 (火)

志賀直哉『山形』

 今年から棚の文学全集を読破することに決めたのだが、第一巻から一冊ずつ片付けるような読み方だとたぶん挫折すると思うので、自分なりの、読み飽きないための読む順番のルールを定めた。ところが第四番目にあたったのが島崎藤村の『夜明け前』である。これはおそろしく長い。読め始めているのだが、片手間に読んでいると読了には最低でもひと月くらいかかりそうだ。だから飛ばして志賀直哉に移ったら、最初が『暗夜行路』である。これは先日読んだばかり。

 

 というわけで代わりに短篇のこの『山形』を読んだ。

 

 主人公は順吉と呼ばれているから、長篇の主人公として想定された『大津順吉』のことで、もちろん志賀直哉自身がモデルである。のちにそれを下敷きにして書き直したのが『暗夜行路』であることはよく知られている(父との諍いのなかの視点で書かれたのが『大津順吉』で、『和解』に書かれているような、父との和解後に書き直されたのが『暗夜行路』)。

 

 足尾銅山の公害問題で父親と激しい諍いをした主人公が、久しぶりに父の呼びかけで宮城県の父の仕事先に同行を誘われる。そのたびについて、そしてそのあと山形の、歳の近い叔父を訪ねる話である。

 

 足尾銅山は志賀直哉の祖父が古川市兵衛(古河鉱業の創業者)に委託した事業であることは以前書いた。もともと志賀直道(志賀直哉の祖父)は相馬藩の家令で、相馬藩の資本をこの足尾銅山に投資したのである。

 

 青年で純粋だった志賀直哉が足尾銅山の公害問題で被害者の側に立ち、父を非難したのは自然なことであろう。しかしそういういきさつがあったとはいえ、順吉は仲違いしていた父からの誘いをうれしく思ってその誘いに乗る。親子であるから当然の気持であろう。

 

 今回は宮城県の小さな銅山の視察の同行である。宿にしたのが鳴子温泉で、視察が終わったあとに鬼首温泉の間欠泉を見物に行ったりしていて、私のいつも行くあたりの地名がいろいろ出て来てなんとなく嬉しい。順吉はそのあと、山形に住む叔父を訪ねるように父に勧められるのである。

 

 鳴子から人力車で峠を越えて新庄へ、そこから列車で山形へ。まだ陸羽東線は走っていなかったと見える。

 

 山形の叔父に会って今回の父の誘いの目的が判明する。父や叔父が自分を心配してくれるのは頭で理解できるけれど、それは主人公にとっては不愉快なことであった。こうして父との和解はまだまだ先のことになるのである。
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