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2020年1月 6日 (月)

徳田秋声『町の踊り場』

 徳田秋声は明治四年、金沢に生まれた。泉鏡花も同じく金沢生まれで、彼は明治六年生まれである。さらに室生犀星も金沢生まれ、ただし彼は明治二十二年生まれだから少し年が離れている。この三人の列んで立つ銅像が金沢城周縁の木立のなかの散策路のどこかにある。

 

『町の踊り場』はその金沢に住む姉の危篤の知らせに東京から急いだ私(徳田秋声本人であろう)が、着ていく服に悩んだことを語るところからこの短篇は始められる。死んだとなれば葬儀用の礼服が必要で、あらためて取りに帰るわけにはいかないからだ。案の定金沢に着いた時、迎えの者に姉が亡くなったことを知らされる。列車がどのあたりを走っていた時だろうか、と考えたりする。

 

 姉の通夜と葬儀の様子が語られるなかで、親類一同の顔ぶれ、それぞれの消息、すでにいない自分の父の一族というものの不思議さに思いを馳せる。長兄と死んだ姉は父の先妻の子で、自分と妹は後妻の子である。七十で亡くなった姉は前年夫に先立たれている。その姉に幼児だった自分が背に負ぶわれた時のぬくもりとその匂いの記憶がよみがえったりする。美しい姉であった。

 

 なんとなく所在のない私はそんな時に鮎を食べに出掛けたりする。

 

 通夜が終わり湯灌が家族の手で行われ、火葬がすんだあと、彼はふらりと『踊り場』に独りで出掛ける。踊り場とはダンスホールのことのようである。どうしてそういう心境になるのか、そこで出会った女性たちと踊ったりしたあと、私は憂鬱な気持ちが晴れた気持になり、兄の家に帰って青蚊帳の中で甘い眠りに落ちる。
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