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2020年1月22日 (水)

梶井基次郎『檸檬』

 この短編小説を高校の国語の教科書で読んで以来、これを読むのは何度目になるだろうか。読むほどにその完璧な文章に驚く。梶井基次郎の生きることに対する緊張感、研ぎ澄まされた美意識に圧倒される。31歳で亡くなった梶井基次郎にはたくさんの草稿があったが、出版されたのは一冊の短編集のみであった。

 

 高校の授業でそれなりに丁寧に読んだはずなのに、二回目に読んで始めて丸善というのが東京の日本橋の丸善ではなくて、京都の丸善だと気がついたくらいの雑な読みしか出来ていなかったのだ。

 

 檸檬を一つだけ買った夜の果物屋の店頭の様子はあたかも絵のようである。暗がりの中に店頭の灯りだけが果物を活き活きと輝かしている。そういえば西島三重子の『池上線』の歌詞の中にそのような光景が歌われているのを思いだした。

 

 病気のための気怠い身体、憂鬱な気持を抱える主人公の見る世界が、一個の檸檬であたかも靄が晴れるようにさわやかになる。そのわずかな輝きの時間は宝石のような時間で、それを読む方は感情移入しながら、つまり主人公そのものになって、主人公の目で世界を眺めることになる。どこまで深く読めるかでその輝きの強さが違うのだろう。

 

 これは『昭和文学全集』(小学館)の第7巻で読んだ。この巻には中島敦や内田百閒、中勘助をはじめ短篇の名手たち11人の作家の多くの作品が収められていてこのままこの巻を読み続けたい気もするが、自分で決めたルールに従い、我慢して第8巻に移る。
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