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2020年1月 4日 (土)

山本夏彦&久世光彦『昭和恋々』(清流出版)

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 失われたものは戻らない。「あのころ、こんな暮らしがあった」という惹句が添えられたこの本は写真コラム集と呼ぶものか。前半は山本夏彦が、中盤は久世光彦が、昭和の暮らしをさまざまな事物について書いたコラムに写真が添えられている。そして最後は二人の対談集となっている。

 

 昭和と云っても昭和10年代20年代のものが多い。蚊帳や産婆、足踏みミシンや駄菓子屋など、すでにいま見ることができないか、ほとんど見られないものもある。

 

 久世光彦は『寺内貫太郎一家』をはじめとして、向田邦子の作品を多くドラマ化したことで知られるTBSのプロデューサーであり、著作も多い。また山本夏彦は向田邦子を高く評価していた。辛口の批評家の彼としてはめったにないことである。

 

 ここに取りあげられたものは、私が子どもの頃にはあって、いまはあまり見ないものばかりである。それを懐古的に見ることができる世代といっていい。それも遠からず失われる。ここにあげられた事物は、われわれの思い出とともに失われていくのだ。世の中はそうやって変化していく。

 

 久世光彦が時代考証についてのクレームで苦労したことを書いている。すでに失われたものを再現してドラマのシーンに置くことはほとんど物理的にも経済的にも不可能なのだけれど、それが時代考証的に間違っている、と延々と抗議する老人が必ずいるのだという。いっていることは事実であるから反論ができない。ただ拝聴するしかない。その老人の心情について、「私はお前と違ってその時代のことを知っている」という優越感を感じたと書いている。なんだか分かる気がする。抗議する者の、過去への郷愁を感じ取る久世光彦に敬意を感じた。
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