中村真一郎『この百年の小説』(新潮選書)
安岡章太郎の評論随筆を読んだのがきっかけになって文芸評論を読む気分になっている。棚にあったので引っ張り出したこの本も、大昔に読んだ(昭和49年発行)はずなのだが、ほとんどおぼえていない。かすかに私の好みと違う視点であったことだけが記憶に残っている。
この百年といっても昭和49年は1974年であるから、明治から戦後にかけてのたぶん70年間くらいの文芸作品について論じられている。明治の、口語文がまだ未完成の時代の作品はそれ以後のものと同列に論じることはできないから、どうしても漱石や鴎外以後となる。だからとりあげられた多くの作品が大正以後と云う事になるからだ。
「青春」、「恋愛」、「老年」、「少年」、「真理」、「感覚」、「家庭」、「社会」、「歴史」、「滑稽」、「西洋」という11のテーマに分けて著者の考える関連作品を取りあげ、時代背景と作家の思いを論じている。
著者の中村真一郎の視点は戦後評論家の主流だった、社会主義的進歩史観のように思う。或いは私の思い違いか。そのような臭気のない安岡章太郎や江藤淳になじんでいるので、反発を感じる部分もあるが、今回はそれを受け流しながらとりあげられた作品について素直に意見を拝読した。
こういう評論を読むと、未読のものはもちろん、既読のものも含めていくつかの作品を読んで見たくなる。
今年の読書目標は棚に飾ってある小学館版の『昭和文学全集』読破なので、それで出あうことのできる作品もあるはずだ。各巻三段組千ページを超えるので、作品は長短合わせて軽く千を越えるはずである。毎日一作ずつ読破しても三年以上かかるだろうか。
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