安岡章太郎『文士の友情』(新潮社)
副題が『吉行淳之介の事など』となっていて、前半が吉行淳之介との交遊について、そしてそれに連なる第三の新人の仲間たちの事が綴られている。島尾敏雄、遠藤周作、阿川弘之、庄野潤三、三浦朱門などである。続いてその中の遠藤周作、さらに島尾敏雄が詳しく語られている。後半は対談で、小林秀雄との文学についての対談、吉行淳之介、小川国夫との島尾敏雄についての対談、そして最後が遠藤周作と井上洋治との信仰についての対談である。
巻末に『あとがきに代えて』と題して娘の安岡朝子が父の交遊について、そしてこの本の出版に関するいきさつが語られている。なかなか好い文章で、その思いに胸に迫るものがある。
安岡章太郎は自分を落第生、劣等生として自嘲しながら韜晦する事が多いので、軽みのある作家に思いやすいけれど、じっくり読み込むととんでもない。深い思想を背景に持つ、読みごたえのある作品をたくさん残した作家なのだ。これは迂闊な私がようやく気がついた事で、読めば読むほど味わいがある。
そういう安岡章太郎だから、彼の友人達は彼を本当に敬愛していたことがこの本で読み取れる。「あたかも友情」、と云うのは世にいくらでもあるが、「本当の友情の如きもの」は世に希なものである(by山本夏彦)。そのありがたさを正直に書いているのがこの本だと思う。
召集されて兵役をうけている時に病気で退役をして、その後脊椎カリエスでほぼ寝たきりとなり、奇跡的に一命をとりとめたから、自分がその仲間たちより長生きした事が安岡章太郎に不思議な感慨をもたらしていたようだ。とはいえ吉行淳之介も遠藤周作も重い病気を抱えて苦しんでいたのも事実である。
この本は彼の死後にその彼の感慨を読み取れるような意図で編集されているもののようだ。さいわい私もその感慨を多少なりとも受けとめる事ができた気がしている。
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