柳田國男『山の人生』
先日のブログにうっかりして柳田國男の『山の生活』を読んでいる、などと書いてしまった(すでに修正済み)が、正しくは『山の人生』である。
山に棲む人は里に住む人と違う生き方をしていると見做されてきた。それは山姥や天狗、サンカといわれる人々、さらに関連して神隠しなどとして日本全国に無数の話が残されている。それらの話を蒐集し、系統付けて論じているのだが、例として引用されている話がどれもたいへん面白い。
柳田國男は日本の原点を稲作におく傾向が強いが、そもそも山に棲む人々は稲作をしない人々である。西国で温暖な気候であれば稲作に適するが、東国、特に東北だと、寒冷地で稲作に適さない。日本は米本位制経済が長く続いたから、稲作をしない人々は権力者からはまつろわぬ者とされたのではないか。まつろわぬ者は鬼とされたり魔とされた。
この本ではそういう視点で解析しているわけではないが、東北学を標榜する赤坂憲雄などは山の民、又は稲作中心ではない人々を原点とする文化という者を見直す民俗学を提唱していて面白い。それをベースにこの『山の人生』を読むと、いろいろと興味深い。
ここにとりあげられた数多くの話はすでに語る人もいなくなり、文献でしか残されていないだろう。現実にあった山の生活はほとんど消滅したが、今消滅しつつある。こうして日本の原点が日本人から失われていく。文化が失われていく。それははたして進歩なのだろうか。
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