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2020年1月26日 (日)

『安岡章太郎随筆集 5』(岩波書店)

 全八巻のうちの第五巻を読了した。この巻は文学という切り口で安岡章太郎が考える文明論を語る、というテーマの文章がまとめられている。

 

 冒頭の『「愛国心」について』と云う一文など、まさに安岡章太郎節(ぶし)全開で、高校生達が参加する「愛国心」がテーマのテレビ番組に呼ばれたときの話が書かれている。安岡章太郎は相手を否定しない。すべてを受け入れながら、ああだろうか、こうだろうか、と話を展開しながら次第に深化させ、ついには彼がとことん考えつくした思いを呈示してみせる。如何にもあたりまえのようなその彼の考えが、その背後にどれほどの思索の積み重ねの上のものか、それを実感して感銘するのである。

 

 次に東京オリンピックを前にしての彼のいささかひねくれたコメントは、余りに私のいまの気持ちに似ていて思わず独りで苦笑してしまった。安岡章太郎はすでに亡くなっているから、もちろん前回の1964年の東京オリンピックのときの彼の思いである。

 

 彼の思考の原点には昭和10年代20年代があるから、彼のいう文明論、文学論はその時代がつねに背景にある。それは安岡章太郎や彼と同世代特有のものではない。昭和時代の作家評論家はすべてそうだといえる。そしていま私が最も興味をもって読み取ろうとしているのはそのような文学論であり、評論なのだとこの頃ようやく気がついているところだ。そしてそれは、そのさらに淵源として、明治の開国後の日本の文学者たちの苦闘の成果につながっている。

 

 それが文学だけにとどまらないものであることを江藤淳が喝破していて、そのことが私にもようやくわずかに理解出来るようになった。全く分からなかったことがほんの少しだけ分かり出すと、次から次に「なるほどそうか」という喜びのつぶやきが思わずもれるのである。

 

 出来れば五十年前に分かりたかった。鈍才はずいぶん遅れてノタノタと歩いているのだ。
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